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✧≡≡ FILE_007: 腐敗 ≡≡✧
冷たい空気が、肺に刺さる。
呼吸が白く震え、吐くたびに肩が上下する。
皆が避難所へ向かう中、boyは逆方向を走っていた。
路面は凍っていない。雪も積もっていない。だが風は刺すように冷たく、手の指はかじかみ、鼓動は耳の中で爆音のように響いていた。
「はっ、はっ、はっ……」
“ワイミーズハウスまで、あと少し”。
恐らくそこに、“キルシュ・ワイミー”がいる──!
ポケットの中のラジオは、まだかすかに音を発していた。ノイズの合間に聞こえてくるのは、爆弾の解析報告。
爆弾が電線に繋がっていること。
ルミライトが使われていること。
誰も解除方法を知らず、触れれば爆発する状態であること。
それだけの情報で、boyはひとつの希望を胸に走っている。
(──爆弾を止められるかもしれない。だが、私の考えるやり方で本当に止められるのか──“分かる人”に聞いた方が早いか──)
結論から言えば、彼はもう九割方、爆弾の解除方法を頭の中に描き終えていた。
ただ──九割という数字は、少年の世界では合格であっても、爆弾の世界では不合格だ。
残りの一割が外れれば、その瞬間に世界が消し飛ぶのだから。
その一割を埋めるために必要なのが、“本物の専門家”。
──キルシュ・ワイミー。
あの爆弾の元素となった者だ。
しかし、boyが危惧している問題は己の推理ではない。
誰も自分の言うことなんて信じないのではないかという不安。
8歳の子どもが、爆弾の止め方を語ったところで、まともに取り合う人などいないだろう。
「……はっ、はっ、っ、はっ……」
乾いた地面を踏むたびに、肺が音を上げた。
身体は冷えているのに、内側だけが灼けるように熱い。
──だからって。
──だからって……。
ハルバードのことを聞いて黙っていられるわけがなかった。
あの“レーザー衛星”の存在を知った瞬間、少年の中の何かが音を立てて崩れた。
ただの爆弾じゃない。
地球の上空から、光だけで街を消し去る兵器。
それを作ろうとしている“誰か”がいる。
「……っ、はっ、はっ……」
そんなものがもし出来上がってしまったら──この地球は一溜りもないだろう。
皆そのハルバードを自国のものにするために再び戦争が始まる──
──第三次世界大戦!
何としてでも食い止めなくては──!
「はっ、はっ……っ……、くっ」
足がもつれる。視界がぶれた、その瞬間。
ガツンッ
目の前から歩いてきた男と、ぶつかった。
「──ッいた」
「いってぇな、何やってんだガキ! どこ見て歩いてやがる!ったく!」
捨て台詞のように吐き捨て、男は乱暴に押して除けて去っていった。
boyは倒れはしなかったが、ぐらりと体が揺れた。
前を見ていなかったのは、そっちなのに。
「…………」
言い返さなかった。
言い返しても、意味がない。
そんなことはわかっていた。
ただ、食いしばった。
(……世の中、こんな腐った大人ばかりなのか)
あの男も、政府の誰かも──
避難だけして、爆弾のことは理解せず、ルミライトの恐ろしさを知ろうとはしない。避難命令だけをしていればいいと思っている──馬鹿ばかり。
拳を固く握り直す。
冷たい指先に、確かな感覚が戻る。
「……っ」
しかし──ワイミーさんは違うはずだ。
彼なら私の話を聞いてくれるだろう。
少年はもう一度、足を踏み出した。
世界の終わりを止めるために──彼の足音は、小さく、けれどまっすぐに、世界を変える方向へと進んでいた。
ワイミーズハウスまであと3km──