テラーノベル
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坪井は言いにくそうに声を詰まらせ、そのまま黙り込んでしまった。
真衣香は恐る恐る目を開け、俯かせていた顔を上げた。すぐに心配そうに見つめる瞳と視線が交わってしまう。
「……あの時も、冗談言わないでって返せなかったよね、私。なかなか成長しないなぁ」
クスクスと、楽しくもないのに笑い声が出てくる。
「大丈夫だよ、坪井くん。最初の付き合おう、も。この間のキスも、好きって言ったことも全部嘘なんでしょ? 次こそ勘違いしてないから」
真衣香が努めて落ち着いた声を出したというのに、対する坪井は悲しそうに目を伏せた。
「……そうだね、嘘にしたかったんだ」
「嘘にしたいって……」
「できると思ってたんだ、いつもどおり、身軽になれると思ってた。でも、あの夜から今もずっと、お前のこと考えずにいれたことなんてなかった」
坪井は真衣香に触れないよう、ヘッドレストに手を回して横顔をジッと見つめながら。思い返すようにあの夜のことを語った。
「俺さ、お前のことが、怖かったんだよ。自分でもビビるくらい、怖かった」
「……え?」
「だから自分のことだけを守ろうとしたんだよね、お前が傷ついても泣いても、逃げようとした」
「守るって」
「昔、初めて好きになった人のことも、同じように見捨てたんだよ、俺は結局いつも自分のことが一番可愛かったんだ」
真衣香の頭のすぐ横、ヘッドレストの側面に額をあてて坪井は深く息を吸い込んで吐き出した。
ギリギリ触れ合ってなくて、けれど至近距離。トクトクと心臓の音が早くなっていくのがわかってしまう。
「……今も、正直どう行動するのが正解なのかわかってない。でも、お前が誰かのものになってくの、黙って見てられなかったんだ……ごめん」
「ご、ごめんって、そんなの……し、信じられないよ、私、だって」
これ以上聞きたくない!と、声の続きを拒むよう、無意識に耳を塞ごうとする。
けれどそんなポーズで遮れるはずもない。
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