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雪山修学旅行。
4泊5日。
校門前に停車する大型バス。
吐く息が白い。
生徒も教師も浮き足立っている。
「雪合戦だー!」
「夜はトランプ大会な!」
賑やかな声が飛び交う。
その中心にいながら、内田は静かだった。
(外部因子……)
均衡を揺るがす何か。
まだ姿は見えない。
だが、“人の多い場所”よりも“人のいない場所”のほうが危うい。
カメラは鞄の中。
ノートパソコンも持参している。
観測と連絡手段は確保済み。
バスが走り出す。
市街地を抜け、山道へ。
雪が増え、景色が白に染まる。
この世界は紙。
今は、白で塗られている。
オリバー「楽しんでる?」
隣に座ったオリバーが小声で言う。
内田は視線を窓の外に向けたまま答える。
内田「警戒はしている」
オリバーは苦笑した。
オリバー「真面目だね」
そして、耳元でささやく。
オリバー「この世界、怪異はアリスちゃんだけじゃないんだ」
一瞬、車内の笑い声が遠のいたように感じる。
オリバー「人通りのない山は気をつけて」
真剣な声だった。
数時間後。
バスは麓の旅館に到着する。
木造の建物。
屋根には厚い雪。
玄関前で記念撮影。
教師たちもはしゃいでいる。
グレース校長も珍しく穏やかだ。
グレース校長
「怪我のないように」
それだけは、はっきり告げた。
部屋割り発表。
畳の大部屋。
荷物を置き、窓を開けると、
静まり返った山が広がっていた。
白。
完全な白。
(均衡は……揺れていない)
空気は澄んでいる。
歪みも、ノイズも感じない。
外部因子の気配は、ない。
杞憂だったのかもしれない。
内田は小さく息を吐く。
背後から声が飛ぶ。
「温泉行くぞー!」
騒がしい笑い声。
内田は窓を閉める。
カメラを取り出し、電源を入れる。
通常モード。
試しに窓越しに一枚。
カシャ。
ただの雪景色。
フラッシュは使わない。
まだ、必要ない。
夜。
山は、
昼よりも静かだ。
白は、闇の中で灰色になる。
人通りのない山。
オリバーの言葉が、
静かに残っていた。
怪異は、アリスだけじゃない。
修学旅行初日。
今のところ、異常なし。
だが――
白は、
何かを隠すのに向いている色だった。