テラーノベル
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誰かの歌が聞こえる。
記憶の片隅に響く、懐かしい歌。
優しく、暖かく、美しい声。
幼い日の記憶を運んでくる声。
私を愛してくれた、大切な人の声。
蝶は、亡くなった人の魂を運んでくるんだよ。
お父さんもきっと、あの蝶になって、自由に飛び回りながらアイラを見ていてくれるよ。
ネリネに止まった一羽の蝶を見て、そう言って笑ったあなたも、蝶になったのだろうか。
〜〜〜〜〜
845年、壁外。
雨の中を、調査兵団は馬に乗って駆ける。
仲間はもう、何人も死んだ。
それなのにまだ、私たちは進む。
これが、人類のため?
〜〜〜〜〜
門がゆっくりと開いていく。
その向こうにあるのは、民衆からの非難の目。
「これだけしか帰ってこなかったのか……」
「みんな食われちまったんだ」
「わざわざ壁の外に出るからこうなるんだ」
ああ、またか。
なんで私たちばっかり。
飛び交う批判の声を聞きながら、空を見る。
「モーゼス!」
その声に顔を上げる。
「あの、息子が……モーゼスが見当たらないんですが、息子はどこでしょうか?」
「……モーゼスの母親だ。持ってこい」
団長が言う。
なんで、そんなの。
そんなもの渡したって、絶望させるだけなのに。
「ああああっ」
渡されたモーゼスの腕を見て、彼の母は泣き崩れた。
残酷すぎるよ、そんな伝え方。
「でも……息子は役に立ったんですよね」
モーゼスの母が言う。
「なにか直接の手柄は無くても、息子の死は人類の反撃の糧になったんですよね!?」
「もちろん……いや、今回の調査で、我々は……いや、今回も」
団長がうつむく。
「なんの成果も得られませんでした!!」
辺りに、団長の声だけが響いた。
馬鹿みたいだと、思った。
この世界がだ。
こうやって命をかけて戦う人が、1番罵られ、1番頭を下げなくてはならない、この世界が。
私の大切な人も、また死んだ。
強く優しい人から死んでいく。
ねえ、行かないで。
行かないで……
そして、845年のあの日、
シガンシナ区は陥落した。
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