テラーノベル
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「肝臓が悪かったら肝臓を食べて、胃が悪かったら胃を食べてって、そうしたら病気が治るって信じられてたらしいよ。だから私は、君の膵臓を食べたい」
「もしかして、その君っていうのは僕のこと?」
「他に?」
くすくすと笑う彼女もこちらを見ず仕事に徙事しているようだった。
ハードカバーの本を並べ替える音が聞こえる。
「僕の内蔵に、君を救うなんていう重荷は背負わせられないな」
「プレッシャーで胃まで痛くなっちゃいそうだね」
「だから他をあたってよ」
「他に誰をあたれって? 流石の私も家族は食べられる気しないなぁ」
また彼女はくすくすと笑う。
僕と言えば、真面目にも無表情で仕事をこなしているのだから、見習ってほしいものだ。
「だから、結局【秘密を知ってるクラスメイト】くんにしか頼めないよ」
「君の算段の中には、僕が膵臓を必要としている可能性はないの?」
「どうせ膵臓の役割も知らないんでしょうにー」
「知ってるよ」
知っている。
その聞き慣れない臓器のことを、僕は以前調べたことがある。
無論、彼女がきっかけで。
後ろで、彼女が嬉しそうに振り返ったのが息遣いとステップの音で伝わってきた。
僕は本棚に体を向けたまま、ちらりと一瞬だけ彼女を見やる。
そこには汗だくで、もうすぐ死ぬとは思えない笑顔を浮かべる女の子がいた。
この温暖化のご時世、もう七月だというのに書庫のエアコンが効いていない。
僕も汗だくだ。
「もしかして、調べたりしたの?」
彼女の声があまりに弾んでいたので、仕方なく僕は質問に答えてあげる。
「膵臓は、消化と、エネルギー生産の調整役だ。例えば糖をエネルギーに変えるためにインスリンを作ってる。もし膵臓がないと、人はエネルギーを得られなくて死ぬ。だから君に膵臓をご馳走することはできないんだ。ごめんね」
一気に言ってしまって仕事に戻ると、彼女はうわははっと声を出して笑った。
僕のジョークがそんなにうけたのかと少し得意になっていたのに、どうやら少し違うらしかった。
「なんだあ、【秘密を知ってるクラスメイト】くんも私にちゃんと興味持ってくれてるんだねえ」
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