ある朝、涼ちゃんがぼんやりと目を覚ました。窓の外には淡い朝日が差し込んでいる。
ふと隣を見ると、いつもなら自分のために起きているはずの𓏸𓏸が、ベッドで眠っていた。
顔色が悪く、何度も布団の端を無意識に握ったりゆるめたりしている。
涼ちゃんはしばらく、何もせずにその姿を見つめていた。
やがて、静かに立ち上がり、𓏸𓏸の肩にそっと毛布をかけ直す。
「……」
表情は変わらない。行動も、どこかぼーっとしている。
それでも𓏸𓏸のために、ただ一度だけ、手を伸ばした。
しばらくして𓏸𓏸は、うっすらと目を覚ました。
体がだるくて、頭が熱い。体温計を見ると、熱が出ていることを知ってしまった。
けれど𓏸𓏸は、「自分が倒れる訳にはいかない」と必死に立ち上がる。
ふらつきながらもゼリーを用意し、水を用意し、部屋に運んでいく。
涼ちゃんの顔を見て、「ごめんね、あんまり元気じゃなくて…でも、ご飯と、お薬は…」と声をかける。
涼ちゃんはそれに返事をしない。
ただ、𓏸𓏸の手元をじっと見つめている。
でも、その心の中では――
『𓏸𓏸ちゃん、ごめんね』『𓏸𓏸ちゃん、やすんでていいのに』
そんな言葉がゆっくり浮かんだ。
𓏸𓏸のために何かできることはないか、
まだ言葉にはできないけれど、
涼ちゃんの心に、小さな「いたわり」の芽が生まれていた。
𓏸𓏸はそれでも、涼ちゃんの記録ノートに毎日の体調を書き続ける。
自分の熱も一緒に記録し、
「無理しないで」と書き添えられることはなくても、
お互いの命が静かに支え合う空気がそこにあった。
涼ちゃんは今日も窓の外を見つめている。
けれど――隣のベッドの𓏸𓏸を、時折そっと見やるその瞳には、
前よりも、ほんのわずかなぬくもりが宿っていた。