「彩乃、ちょっといい?」
誰もいない渡り廊下で、彩乃を呼び出した。
人がいない方が、彩乃と喋りやすいから。
私は1年間彩乃と一緒にいた。
だから彩乃の性格は大体理解しているつもりだ。
彩乃は口が軽い。
そして、誰かと裏で繋がることに抵抗がない。
よく言えば純粋で、悪く言えば単純なのだ。
だから私はその性格を利用し、彩乃を味方にする。
案の定、彩乃は全て教えてくれた。
あの時、私のことを無視したのはすずやみさきがいたから。
すずやみさきは私のことを嫌っていて、そんな2人に話を合わせているにも関わらず、私と話していたら一花と彩乃は2人にハブられる。
だから、私のことを見ないふりをした。
「ごめん……
あ、でも、すずやみさきがいなかったら、なのはとも話せるから!
だから、大丈夫……!ね?」
すずやみさきがいなければ、私とは話せるよ、と私を励ますような言葉は、正直私には気休め程度のものだったと思う。
私は、嬉しいような悲しいような、そんな気分になった。
彩乃が私を嫌いたくないのはわかる。
だけど、それでもやっぱり悲しい。
だって、つまり一花と彩乃は、すずとみさきが怖いってことだから。
憶測かもしれないけれど、私をハブったことで、あのグループのリーダーは、中心となって悪口を言ったすずとなったのかもしれない。
そう考えると、一花も確かに立場が危うい。彩乃はもっと。
元々彩乃は、ただ席が近かったからグループにいれただけ。対して理由はなかった。
だから彩乃は、普段から私たちに合わせて必死に居場所を作ってきた。
だが、今のすずなら、もう彩乃をハブることもしかねない。
もしかしたら一花も、もういらないと言ってしまうのかもしれない。
すずは、変わってしまった。
あの頃よりも、だいぶ強情で、権力も上がったように思う。
まるで、5年の私みたいだ。
なんらかの理由で自分の権力が上がり、どんどん性格が悪くなる。
人の上に立つことなんて、なんの意味もないのに。
「友達、つくったら?」
母にそう言われた。
もう、何回目だろう。
ちがうよ、と呟いた。
できないんだよ。
私は、友達の作り方がわからなくなった。
だって、今までずっと信じてきた人に裏切られたんだよ……
もう、人を信じることを忘れてしまった。
私は、このクラスに居場所がなかった。
だけど、向こうのクラスはもっと酷かった。
あの頃はあった居場所。それは、もうなくなってしまった。
原因は彩乃だ。
彩乃が、「私とすず達が喧嘩している」とばらしたのだ。
彩乃はすず達と仲がいい。
だから、私が完全に悪いように伝えられた。
1人で外に出る。
昼休みじゃないし、雨だからかから、外には誰もいなかった。
冷たい雨が私に降り注ぐ。
まるで、私を責め立てるように。
握っていた家から持ってきた傘を投げ捨てる。
今は、この雨に打たれたい気分だった。
自分を、傷つけたかった。
足元にあった石を思いっきり蹴った。
ガン、と音を立てて、その石は転がる。
その石をもう一度蹴った。
今度はもっと強く。
石が割れた。
砕けた石は、すごくあっけなかった。
「私ばっかり、なんで苦しまないといけないの……!?」
砕けた石をもう一度、蹴る。
「何も知らないバカな人たちは、黙ってよ!!」
もう一度。
「どうせ、人の痛みなんか、知らないくせに!!」
もう一度。
「ふっざけんな!私が何したって言うんだよ!!」
もう一度。
「お前らのどこが偉いんだよ!!」
足を大きく後ろに引いて、力を思いっきり込めて、粉々な石をもう一度蹴っ飛ばした。
「人の事情を勝手に決めつけんな!
自分の都合のいいとこだけ切り取って周りに伝えて、それで居場所を守るとか、
なんなんだよ………!!!
こっちだって、死にたいくらいなんだよ!
居場所とられて、作り上げてきた自分を勝手に塗りつぶされて、
死にたいんだよ!!
自分だけが苦しめられる世界なんか、大っ嫌いなんだよ!!」
もう砂のようになった石を見つめて、私は弱々しく言った。
「死にたいんだよ…………」
こんな、悪いとこだらけの自分なんて、死んで仕舞えばいいのに……!
人の事情勝手に決めつけて、
自分の都合のいいとこだけ切り取って周りに伝えて、それで居場所を守った私なんか、大っ嫌いだ……!
私の一言は、きっといろんな人を傷つけてきた………!
そんな自分なんて、最悪だ…………!
わかってるんだよ……… わかってる……
こんなこと言ったらもっと死にたくなっちゃうんだって。
でも、言わなきゃ私は忘れてしまう。
罪の重さを身に刻み込むために、私はこうして泣き叫ぶ。
忘れちゃいけない。
だって、これは無価値な私が友達を作った、
生まれてきた罰なんだから……!
誰にも迷惑をかけない。
だから、今だけは、私を泣かせてほしい。
泣いて、そしたらもう一度笑うから。
いつものように、笑うから………!
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