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馬車の扉が閉まり、ほどなくして車輪が石畳を踏みしめる音が響き始めた。


ゆるやかな揺れが、逃げ場のない現実を刻むように伝わってくる。


向かいの席に腰掛けたランディリックは、しばらく視線を落としたまま言葉を選んでいるようだった。

沈黙が長引くほど、リリアンナの胸の奥に、冷たいものが溜まっていく。


「……先ほどは、すまなかった」


低く、抑えた声だった。


「君を一人にするつもりはなかった。ただ……少しでも早く、君からダフネを遠ざけたかった」


リリアンナは、窓の外へ視線を向けたまま何も答えない。


「彼女が勝手にウィルの屋敷を出て……あまつさえキミのところまで来てしまったことは、完全に僕の落ち度だ。挨拶がしたいなどと言っていたが、どう考えてもそれは詭弁だし、あの場に置いておくことが出来なかった」


揺れる車内で、ランディリックの声だけが続く。


「だから、早急にウィルの屋敷へ連れ戻したんだ」

「……ダフネは……ランディの養女になったって言っていたわ。それなのに……なぜ、ウィリアム様のお屋敷へ連れて行くの?」


その問いを口にした瞬間、リリアンナは、かつて自分がニンルシーラへ向かう前に、ペイン邸で一泊した日のことを思い出していた。


(ランディ、デビュタントが終わったら、ヴァン・エルダール城へ連れて帰ってくれるって……言ってくれたのに嘘だったの?)


もしかしたら――。

いや、もしかしなくとも十中八九――、自分は王都に残され、代わりにダフネが連れて行かれるのではないだろうか。


(……だって私は、ウールウォード伯爵家の人間だもの)


ランディリックは、あくまで後見人だ。

ダフネのように、ライオール家の養女として迎え入れられているわけではない。


「あの子を……養女として迎えると決めたのは、すべて僕の判断だよ。だけど、好んで手を差し伸べたわけじゃない」


そこで言葉を切ると、ランディリックはリリアンナの方を真っ直ぐに見つめて言い切るように続けた。


「分かっているだろう? 僕にとって一番大事なのは、リリーだ。だからこそ……キミの従妹のことは、ウィルに任せた」


その言葉を聞いても、胸の中の霧は晴れなかった。


「理由は……?」


リリアンナは拳を握りしめ、真正面からランディリックを見つめる。


「ダフネを、養女に迎えた理由。止むに止まれぬ事情があったっていうのなら……私は、それを知りたい」


ランディリックは、その視線を受け止めきれないように、わずかに目を逸らした。


「……彼女の立場を、曖昧なままにはできない事情があった」


「だから、その事情を……」


食い下がった言葉に、返ってきたのは短い沈黙だった。


「……すまない」


それだけで、彼がこの話の核心を避けていることは明白だった。


全てを話すと言ったくせに、肝心なところは伏せられている。

こんな説明で、納得できるはずがなかった。


「……全部は話せないけれど、信じて欲しい……と。ランディはそう言いたいのね?」

声は、驚くほど静かだった。

「リリー」

「私が今感じているモヤモヤを全部飲み込めば……それで、すべて丸く収まるってことでしょう?」


ランディリックが、わずかに眉を寄せる。


「……そういう言い方をされると、困る。僕は――」


その言葉を遮るように、リリアンナは問いを落とした。


「……これだけ答えて? ダフネに貴族としての立場を与えるのは、ウィリアム様では……ダメだったの?」


ぽつりと零れた問いに、言葉が途切れる。

馬車の揺れだけが、二人の間を行き交った。

ヤンデレ辺境伯は年の離れた養い子に恋着する

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ランディー、ちゃんと話してあげて。

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