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第37話 〚噂の先、雨の中で〛
昼休みの教室。
「ねえ、白雪と橘ってさ」
「絶対、付き合ってるよね?」
「まだって言ってるだけじゃない?」
そんな声が、
もう隠されることなく聞こえてくる。
澪は、
聞こえないふりをして本を読む。
けれど、
胸の奥がざわついていた。
(……付き合って、ない)
(でも……)
視線の先で、
海翔が友達に囲まれて笑っている。
その姿を見るだけで、
少し安心してしまう自分がいた。
放課後。
「一緒に帰る?」
海翔のその一言に、
澪は小さく頷いた。
校内を出た瞬間――
ぽつ、
ぽつ。
雨。
次の瞬間、
一気に降り出す。
「うわ、降ってきたな」
「……傘、忘れた」
澪が呟くと、
海翔は少し驚いてから言った。
「俺、一本ある」
迷いなく傘を差し出す。
「相合傘、でいい?」
澪は、
一瞬だけ言葉に詰まってから、
小さく頷いた。
二人で、
一つの傘の下。
距離が、
近い。
近すぎる。
歩き出した瞬間――
肩が、
ほんの一瞬、
海翔に当たった。
「……っ」
澪の心臓が、
強く跳ねる。
「ご、ごめん」
「……いや」
海翔も、
少しだけ声が低くなっていた。
雨音が、
二人の間を包む。
言葉は少ないのに、
空気が、
妙に熱い。
その様子を――
少し離れた場所で、
恒一が見ていた。
手には、
折りたたみ傘。
(……相合傘)
(俺が、するはずだった)
視界の奥で、
澪が笑っている。
その隣にいるのが、
海翔。
恒一の中で、
何かが音を立てて切れた。
(……ふざけるな)
(奪ったくせに)
拳を、
強く握りしめる。
雨に打たれながら、
恒一は立ち尽くしていた。
その目にあったのは、
もう“好意”ではない。
――はっきりとした、
怒りだった。
雨は、
止まない。
そして、
この夜を境に。
恒一の感情は、
完全に暴走へ向かい始める。