『デート』
待ち合わせ場所に、
ちぐさは一番に来ていた。
時計を見る。
まだ、約束の時間まで二十分もある。
「……早すぎたかな」
そう言いながら、
そわそわして、立ったり座ったり。
スマホを見るけど、
先輩からの連絡はない。
——当たり前だ。
まだ時間前。
分かってるのに、
胸の奥が、じっとしてくれない。
「……先輩」
名前を呼ぶだけで、
気持ちが少し落ち着く。
ベンチに座って、背筋を伸ばす。
今日はちゃんとしてきた。
服も、髪も、
昨日あれだけ悩んだ。
「変じゃないよな……」
ガラスに映る自分を見て、
小さくうなずく。
そのとき。
少し離れた場所に、
ぷりっつはもう来ていた。
声はかけない。
近づかない。
ただ、立ち止まって、
ちぐさを見る。
——落ち着かん犬みたいやな。
心の中で、そう思って、
でも口元は緩む。
足をぶらぶらさせて、
周りをきょろきょろして。
スマホ見ては、すぐ顔を上げる。
全部、可愛い。
「……ほんま」
誰にも聞こえない声で。
「俺のこと、そんなに待ってくれるんか」
約束の時間まで、
あと五分。
ちぐさが、急に顔を上げた。
視線が合う。
一瞬。
次の瞬間、
ちぐさの表情が、ぱっと明るくなる。
——走り出しそうになる。
でも。
一歩踏み出して、止まった。
我慢。
深呼吸して、
ちゃんと歩いてくる。
その様子を見て、
ぷりっつは胸の奥がきゅっとなる。
「おはようございます、先輩!」
少しだけ、声が上ずってる。
「早いな」
いつも通りの声で言うと、
ちぐさは照れたように笑った。
「……待つの、好きなんで」
その言葉が、
思った以上に刺さる。
「そか」
それ以上、何も言わない。
でも。
ちぐさが人の波に押されそうになった瞬間、
何も言わず、自然に一歩前に出る。
肩が、触れる。
近い。
でも、離れない。
ちぐさは一瞬驚いて、
それから、安心したみたいに息を吐いた。
「……先輩」
小さく呼ぶ。
「ん?」
「今日……楽しみです」
その一言が、
胸の奥で、静かに広がる。
「……俺もや」
短く答える。
——ほんまは、
昨日からずっとや。
そう思いながら。
ぷりっつは、
ちぐさの歩くペースに、
自然と合わせた。
まだ、始まったばかり。
でも。
この距離を、
もう離す気はなかった。
——この犬みたいな後輩が、
どこまで来るのか。
それを見届ける覚悟だけは、
もうできていた。
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