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シンデレラボーイ

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シンデレラボーイ

6 - 第6話

♥

201

2025年08月12日

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◆ 同棲して2年目の春


部屋の窓を開ければ、少し暖かい風が入ってくる。

いつの間にか、ふたりの生活も“当たり前”になっていた。


「ねぇ、ないくんってさ、いつまでこの部屋にいる予定?」


ある夜、りうらがふいに聞いた。


「え。なんで?」


「いや、別に……気になっただけ。」

少し間を置いて、笑った。


「りうらの飯に飽きるまでは、かな。」


「は?」


「ほら、お前たまに急に焦がすし。トーストとか。」


「なにそれ。…答えになってないじゃん。」


りうらは拗ねたように言ったが、

心の中では少し、安心していた。





◆ プロポーズをしようと決めた日


会社の同期が結婚した。

式の写真を見せられて、適当に笑って流した。


だけどその夜、

ないくんが寝たあとのキッチンで、りうらは一人考えていた。


“好き”とか、“一緒にいたい”とかって、

ずっと言葉で繋いできたけど――

そろそろ、ちゃんと形にしたほうがいい。


誰に言うでもなく、でも確かに、決意の瞬間だった。





◆ 準備は、いつも不器用


リングを選びに行ったのは平日の昼休み。

ジュエリーショップにひとりで入るのは、正直キツかった。


「男性の方で、お相手様の指輪をお選びですか?」


「……まあ、そんな感じで。」


「おサイズは、お分かりでしょうか?」


「……知らないです。けど、たぶん、このくらい。」


自分の指を2本分あてて見せた。

わかってなさすぎて、店員に少し笑われた。


でもその笑いも、彼にとってはどこか暖かかった。





◆ 当日。サプライズは、うまくいかない。


「今日、外で飯食おうぜ。珍しく予約した。」


「え、まじ? 何かあった?」


「いや、別に。たまには、な。」


少し不審がりながらも、ジャケットを羽織った。


レストランの席に座っても、りうらはずっとソワソワしている。


「なんか落ち着かなくね?」


「落ち着いてるけど?」


「え、めっちゃ水飲んでんじゃん。」


「暑いし。」


会話はいつも通り。でも心は全然落ち着いていなかった。


料理が終わり、デザートのあと。

りうらはポケットから、小さな箱を取り出して――


……出そうとした瞬間。


「ん? なにそれ?」


「あっ、……あー……ちょっと待って、まだ……!」


「えっ、え? なに? ……あ、ごめん、見ちゃダメなやつ?」


「違う! てか、もう見たじゃん!!」


プロポーズは、完全に台無しだった。





◆ だけど、だからこそ。


部屋に戻って、ふたりとも無言。

やらかした空気が、ただただ重い。


そんな中、ないこがぽつりとつぶやく。


「……でも、りうらが何しようとしてたかは、わかった。」


りうらは下を向いて、頷いた。


「……なんか、ちゃんとした言葉、考えてたんだけどさ。

ないくんの前だと、全部ぐちゃぐちゃになるんだよね。」


「うん、知ってる。」


「……でも、ひとつだけ。」


手を取って、小さな箱を渡す。


「一緒に、いてほしい。これからも。りうらの隣に。」


しばらく黙っていたないくんは、ふっと笑って答えた。


「……“今だけ”って、最初は言ってたけど。」


「うん。」


「今だけじゃ、足りないなって思ってた。ずっと前から。」


りうらの指に、ないこが自分の手を重ねた。


「俺でいいの?」


「……ないくんじゃなきゃ無理。」





エピローグ


翌日。


部屋のテーブルには、昨夜渡された指輪の箱が置かれている。


隣には、ふたり分のマグカップ。

りうらが入れたちょっと濃すぎるコーヒーと、ないくんの残した半分のトースト。


なにも劇的なことはない朝。

でも、そこには**“これからも続いていく生活”**があった。











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