「はいっ!
12才のお誕生日おめでとー!!」
「おぉ……、ありがとう、」
「ふふ、あのね、実は…
20才の誕生日プレゼントももう用意してるんだ」
「えっ、まだまだ先じゃんっ、気がはやいね」
「まあね、
もう君の母上に渡しているのだよっっっ!!」
「行動力すご」
あれから5年後───
「お見舞いきたよ、何があったの、体調は」
突然の電話。友達が救急車で運ばれたらしい。
またサッカー部とかの助っ人して、
どこか骨折したんでしょ、ほんと、お人好しさん。
なんて、この頃は思ってた。
────「君だれだっけ」
「は、」
「ごめん!
なんか交通事故?だっけな、まあそれで、
きおく…?きおくそうつ……?
あっそう!記憶喪失ってやつらしくって」
────「君の事、わかんないんだ」
「ごめん、本当」
「でも、
お見舞い来てくれたって事は、仲良しって事かな」
「……うん、私たちは、友達、」
「だよねー!それより君可愛くない??
めっちゃタイプなんだけど!!?
付き合ってください!!!」
「ぇ、あ、ごめんなさい、」
「くそーーっ、やっぱ無理かぁぁーーっ
でもまあ諦めないよ! もっと君の事教え
ごほっごほっ……う、苦し、、」
「ちょ、ちょっと、! ナースコール、っ!!」
「橘さんっ橘さんっ!!」
「ぅわ、
……ん?ここは」
「急に咳き込むんだもんだから、ナースコール押しといた」
「えぇーっまじか、ありがとう!」
「いやいや、全然…」
「じゃあね、また明日」
「うーん!じゃあねー!!」
「…暇になっちゃったなぁ、雑誌でも読も」
「!」
「へぇー……?」
「じゃじゃーん! これあげる!」
「え、なにこれ……薔薇?」
「いぇす!
一輪の赤い薔薇は、“一目惚れ“って意味があるって
雑誌に書いてあったんだー!!」
ぴったりだと思って!と、渡された一輪の赤い薔薇。
昔の彼女、
橘 湊里(たちばな みなと)みたいだと思った。
湊里に変わりはないのだけれど、
記憶がないはずなのに。
時々、なんでもない日に何気ないプレゼント。
どうしてだろう、嬉しい。
昔みたいで、私は湊里に向かって微笑む。
「ありがとう」
「あははっ、なら良かった!造花だけど…」
「これから毎日一輪プレゼントするね」
「……え??」
やっぱり、昔の湊里じゃあなかった。
あれから本当に、毎日一輪赤い薔薇を貰って、
そろそろ色違いがほしいな、
なんて、貰える事が当たり前に思えてくる程だ。
湊里は、もう退院している。
記憶は戻っていないけれど、体は元気になったから。
そして今日は湊里と遊ぶ日。
私の誕生日祝いらしい。
入院中に話した事を覚えていてくれた。
遊ぶ…、か。
懐かしいけど、なんだか懐かしくないような気持ち。
複雑で曖昧だ。
「おっはよーう!じゃあ行こうか!!」
そういって、笑ってみせる。
走って横断歩道を先に渡る湊里。
「っ!」
──のすぐ横に信号を無視したトラック。
「湊里っ!!危ないっ!!」
湊里は足を止めない。
そのまま走れば、トラックにぶつかってしまう。
なんで、名前呼んでるのに、止まってくれない。
なんで───っ!
ドンッ
「湊里っっ!!!」
「誰かっ、誰か救急車をお願いしますっ!!」
なんで止まってくれなかったの、湊里、ねえ、
───今はっと気付いた事がある。
湊里は、退院していても記憶喪失で、
病院は、橘さんの苗字呼び。
私も、湊里と前で湊里と名前を呼んだ事がない。
───自分の名前、知らない?
私の体全体に冷や汗が伝う。
私が、普段から名前を呼んでいたら。
私が、湊里に名前を教えていたら。
沢山の“私が“が積もりに積もって、
喉元が苦しくなる。
湊里は、交通事故で息を引き取った。
トラックの運転者も警察行き。
私の誕生日どころじゃあない。
辛くて苦しくて、どうしようもなくて。
ただ、守ってあげられなかった私に後悔が残る。
湊里が亡くなってから、明後日になった頃。
湊里のお母さんが、私の家を訪ねてきた。
「お誕生日が、
悲しい日になってしまって、ごめんなさいね。
これ、うちの子が12才の時に、
17才になったら渡してほしい
って言ってたものなの。受け取ってくれるかしら」
「謝る事じゃありません。 ありがとうございます」
昔、そんな事言ってたっけな、湊里。
自分の部屋に戻り、誕生日プレゼントを開けてみる。
正直、鳥肌がたった。
────「っ、一輪の赤い薔薇、」
一輪の赤い薔薇と加えて、小さな手紙が入ってある。
──おたん生日おめでとう!
今は…17才かな?ちなみにわたしは12才!
えへ、プレゼントびっくりしてくれた?
一輪の赤いバラ!造花だけどね~
ちょっとカッコつけてみちゃった(笑)
喜んでくれてたらいいな~!! 湊里より──
湊里から貰った一輪の赤い薔薇は、
今日で約99本。
なんなんだろう、本当に。
湊里って、ズルい。
私を、泣かさせにきてるよ。
ほんとに…
─────守ってあげられなくて、ごめんね
コメント
2件
今回もめちゃくちゃ良かったです!!!! 大切な想いを事前に用意するのは 凄く大事ですね!!! あー…記憶喪失になったのですね… …それは大変ですね。 主人公と彼はきっと同じ想いなのでしょう …伝えられなくても良いんです。 心の中で忘れなければ良いんですよ… 次回も楽しみに待ってます!!!!