とある居酒屋で、一組の青年たちが酒を嗜んでいた。
「アメリカ、この酒美味いぞ///一口やるよ///」
「あーうん。thank you Rossiya」
微笑みながら酒を渡しているのがロシアで、受け取っている方がアメリカ。
国としての彼らは犬猿の仲だが、プライベートでは恋人同士だ。
その関係も5年ほど続き、同棲して3年にもなる。
「…なぁ、ずっとスマホ触るのやめてくれ…///俺に構ってほしい…///」
「はいはいsorry sorry、構ってやるからちょっと待って」
その言葉にロシアはむっとして、酒を呷った。
直接言葉をぶつけても嫌われるだけ、好きな人に嫌なことを言いたくない、そんな思いで、度数の強い酒を飲み込む。
アメリカが構ってくれなくなったのは半年前から。
でも浮気の素振りはないし、機嫌がいい時はデートも連れて行ってくれる。
それで幸せだろ、と言い聞かせながら、アメリカの整った横顔を眺めた。
あぁ、うざい。
なぜこんなにもロシアがうざく感じてしまうのだろう。
酒癖が悪いところも、幼いところも好きだったし、前はよく撫でたり抱いたりしていたのに。
今は、全く違う。 嫌になってきた。
前は腕を組んで歩くこともあったのに、手を繋ぐこともやめてしまった。
飽きたのだろうか。
しかし浮気をする気にはなれない。
やっぱりまだ好きではあるから。情があるから。
(…イラつく…)
言いようのない怒りを酒で流し込み、仕事用のスマホで適当に仕事を割り振る。
日本から『申し訳ありません。この量を今月中に終えるには、少し人手が足りなくて…』
などとメッセージが返されたが、『なんとかしろ』とだけ打った。
「…ロシア、もう出るぞ」
「!わ、わかった///」
「会計してくるから、お前は先に帰ってろ」
「…い、一緒に帰りたい…///」
酒で火照っている赤い頬と上目遣い。
前ならこんなことを言わせることはなかった。会計するまで待ってくれて、一緒に帰っていた。
なのに今は、鬱陶しい。
「そういうのいいから。1人で帰れるよな?」
「…うん」
「じゃ、先に帰って寝てて」
「…わかった…帰るとき気をつけてくれよ」
「はいはい。ロシアもな」
…やっぱり優しくできない。
「…」
悲しげに去るロシアの背中に、少しばかりの後悔が募る。
だが、やったことは取り消せない。
適当にチップを含めた金を出して、さっさと帰路に着いた。
数日後、アメリカは別れを切り出した。
「…なぁ、俺らもうやっていけないと思うんだ。別れた方が幸せになれる、別れよう」
「…ぇ?」
ある晴れた日午後だった。
ロシアとコーヒーを飲んでゆっくりしていた時、急にそんなことを言い出すアメリカ。
ロシアはその言葉を反芻して、ようやく理解が追いついたのか、じわじわと目に水を溜めていく。
「俺ロシアに優しくできてないし、もううざくなってきたんだよ。そんなこと思ってる相手といたところで、楽しくないだろ?」
淡々と言葉を告げるアメリカの言葉は、ロシアには理解ができなくて。
そんなことない、もっと一緒にいたい、冷たくされてもいいから
頭ではそう思うのに、口は縫われたように開かない。
「ぁ…おれ…俺にはっ…ア、アメリカ…しか…」
アメリカしかいない。
「そんなことないだろ?中国や北朝鮮、その他アカいやつらはたくさんいる。対して俺は資本の国さ、自由の国さ。お前とは合わない」
1を言ったら5で返ってくる。
頭が痛くなってきた。
「や、だ…わかれたく…ないっ…」
アメリカの腕を掴んで、ロシアは必死に擦り寄る。
堪えきれなくなった涙をポロポロ流しながら、嫌だ嫌だと繰り返す。
衝撃で単純化した脳では、それをすることが限界だった。
「別れたくないって言ったって、俺はもう無理なんだよ」
「ど、どうしたらっ、どうしたらゆるしてくれる…?おれ、がんばるから…!なに、が、いやだった?ちゃんとなおすから…!」
立っていることもできなくなって、アメリカの足元に膝をついた。
手だけは辛うじて握り続けたが、アメリカの冷たい視線に潰されそうだった。
「はぁ…あのさぁ…」
「っ!」
「俺だって色々考えた。どうやったらお前に付き合っていけるか、どうすれば可愛がってやれるか、可愛いと思えるか」
「ぁ…」
手を振り払われ、ロシアはアメリカを濡れた瞳で見上げることしかできなくなった。
アメリカはそんなロシアを見下ろし、泣いている彼を放って自分の都合を並べる。
「なにが嫌だったか?さあな、俺も知らねえよ。冷めたから無理になった。単純な話だろ?それで納得してくれ」
「そ、そんなっ…!やだ、やだやだっ!はなれないで、わかれないで、おねがい!」
プライドなんてものは必要ない。
ただアメリカを繋ぎ止めたくて、離れてほしくなくて、必死になって言葉を紡ぐ。
「…そうだな、じゃあこれを約束してくれるなら、まだ付き合ってやってもいいぞ」
歪んだ視界ではアメリカの歪んだ笑みは見えず、ロシアにとって1番聞きたかった言葉だけを拾った。
「する、するから、わかれないで…」
「わかってるわかってる。お前がちゃんと守るなら別れねえよ」
久しぶりに頭を撫でてやると、ロシアは強張らせていた体を弛緩させた。
「外でイチャイチャするのはやめること。これを承諾してくれるんなら、まだ付き合ってやってもいい」
「うそ…」
「嘘じゃねえよ。人前で腕組んだり、手繋いだり、あーんとかやめろ。家では最低限なら許すから」
恋人なのに、それを隠してしまうようなことを言われてしまった。
ロシアはショックを受けたが、これを認めなくては本当に別れられてしまう。
「そ、そとで、そういうことしなかったら、ゆるしてくれるの…?」
「許す許さないの話じゃないけどな。ま、そうだな。約束できるか?できないなら別れるだけだけど」
断腸の思いで、ロシアは震えた言葉を発した。
「…や、やくそく、する…まだ、わかれたくないっ…」
意外とはっきりした声で、ロシアは言葉を伝える。
アメリカはにこっと小さく笑って、ロシアに手を出した。
「じゃあ、まだ別れないでいてやるよ」
ぱぁっと顔が輝いて、ロシアはアメリカの手を取った。
(あ〜、ロシアは馬鹿でカワイイなぁ…♡)
コメント
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どうも皆様、サカナです アメリカの「うざい」からのターン、最後以外私の実話だったりします 嫁からクズ彼氏みたいと称されることはあったのですが、マジであんなこと思ってしまいましたね その子は別に恋人じゃないし、私の話も聞かずにお喋り人形とでも思ってそうなヤバい子ですけどね