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# 充電 72 ぱ ー
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「……ふぁ、眠い。ねえらんらん、まだ時間かかりそう?」
ターゲットである高級美術館の裏口。見張りの目を盗んで潜入したすちの口から出たのは、緊張感のカケラもない気の抜けたあくびだった。
「もう、すち!真面目にやって!今いるまが防犯システムをハッキングして書き換えてる最中なんだから!」
インカムから響くらんの焦った声。その横から「おい、すち。終わったら美味いもん奢れよ」と暇72の気怠げな声が混ざる。
今回の任務は、悪徳収集家が隠し持つ伝説の宝石『ブルースター』の奪還。
彼らは夜の闇に紛れ、華麗に獲物を盗み出す6人の怪盗団。そして全員が、人の声に作用する「特殊能力」の保持者だった。
「はいはい、お疲れ様。……あ、こさめちゃん、そっちはどう?」
『ん〜?こっちのみんなは、みこちゃんのイケボに夢中で完全に油断してるよぉ。おれの「音響操作(サイレンス)」で周囲の足音も消したし、準備万端!』
無線から聞こえる楽しげな声。フロントの警備員たちは、みことの「魅了の歌声(チャーム)」と、こさめの気配を消す能力によって完全に無力化されているらしい。
『よし、システム書き換え完了だ。ルートを確保した、突入しろ』
いるまの鋭い指示と同時に、すちとらんは美術館の最深部、宝石が鎮座する展示室へと滑り込んだ。
ガラスケースの中に輝く青い宝石。らんが鮮やかな手つきでそれを回収した、その時だった。
――ジリリリリリリ!!
突如、部屋中に鳴り響く大音量の非常ベル。
「な、んで……!?システムは誤魔化せてたはずじゃ……!」
インカム越しんでいるまが舌打ちする。どうやら、物理的な重量センサーが二重に仕掛けられていたらしい。
「侵入者だ!逃がすな!」
廊下から一斉に押し寄せる、武装した十数人の私設警備隊。手には容赦なく銃が握られている。
「すち、後ろに下がって!俺の能力で――」
らんが前に出ようとした瞬間、すちがその肩をぽんと叩いた。
「いいよ、らんらん。……俺がやる」
すちはいつもの眠たげな目をすっと細め、一歩前に出る。その瞬間、彼の纏う空気がガラリと変わった。
普段の穏やかで優しい雰囲気は消え去り、底知れない圧倒的な「強者」のオーラが部屋を満たす。
すちの特殊能力――
『共鳴破壊(レゾナンス)』。
彼の発する声の周波数を自在に操り、対象の分子構造を狂わせる絶対的な力。
すちは深く息を吸い込み、ただ一言、美しくも冷徹な声を響かせた。
「――『 壊 れ ろ 』」
その声は、銃を構えた警備隊たちの耳ではなく、彼らが持つ「武器」そのものに突き刺さる。
パキン、とガラスがひび割れるような高い音が部屋に響いた。
次の瞬間、警備隊が手にしていた最新鋭のライフルや拳銃が、まるで最初から砂で作られていたかのように、音を立てて粉々に砕け散ったのだ。
「な、なんだと……!?銃が……!?」
「化け物か……っ!」
武器を失い、すちの放つ圧倒的なプレッシャーに腰を抜かす警備兵たち。彼らが恐怖に震える中、すちは再びいつもの、ふにゃりとした柔らかい笑顔に戻って言った。
「あはは、驚かせちゃってごめんね。じゃあ、僕たちはこれで」
呆然とするらんの手を引き、すちは窓枠へと飛び移る。
夜風が6人の怪盗の髪を揺らす中、作戦は見事に大成功。
「いや〜、すちのあれ、相変わらずエグいね。味方で良かったわ」
撤退の車中、暇72がハンドルを握りながらバックミラー越しに苦笑いする。
「本当に心臓に悪いよぉ……でも、すちくん格好良かった!」
こさめがはしゃぎ、みことが「さすがすちくんだね!」と微笑む。
「……ま、被害を最小限に抑えたのは評価してやる」
いるまが不器用にしっぽを巻くような褒め言葉を口にすると、すちはらんから貰ったご褒美のチョコレートを口に放り込みながら、嬉しそうに笑った。
「ん、美味しい!……あ〜、やっぱり能力使うとお腹減るね。あっこの後みんなでごはんいこ~」
最強の力を秘めながら、やっぱり普段はのんびり屋。
そんなすちを中心に、6人の怪盗団の夜はまだまだ賑やかに続いていく。
コメント
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