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北斗が今度はゆったりとした、流れるような静かな曲を弾き出した
頭をやや前かがみにして、太ももを動かしてペダルを踏み、目を閉じて全身で音楽を奏でる
ベートーベンのピアノ協奏曲だとアリスは気づいた、これを楽譜なしで弾けるなんて凄いと思った
北斗の大きな手は優雅に、鍵盤をかすめるように動いている
その旋律はアリスの胸に、母を亡くした後の彼の辛い暗黒の日々を、あまりに鮮明にイメージさせた
途端に胸が震え、アリスの頬を一粒の涙が伝った
それを見た北斗がすぐさま演奏を唐突に中断した
「・・・気に入らなかったか?」
北斗が心配そうに言う
グスッ・・・
「そうじゃないの・・・ただ・・・もう少し幸せそうな曲を弾いてくださらない?」
「幸せそうな曲がわからない・・・・」
「そうなの?そんなに上手なのに」
出会って30分ほど経っているのに、ここへきて初めて二人は見つめ合った
ああ・・・彼に会いたかった・・・アリスの心は踊った
「・・・一通り弾いてみてくれないか、聴かないとわからない 」
彼がわずかに横にずれて、椅子に20センチ足らずの空きが出来た
アリスはそこに腰かけると同時に胸が高鳴り出した
彼はそれ以上横に動こうとしない、その体が頑丈な壁のように思える、彼はアリスに覆いかぶさるように鍵盤を見ている
互いの身体が密着し、彼の硬い筋肉と太ももと、アリスの太ももが当たっている
北斗が様子を伺うように首を傾けると、濃い睫の下の琥珀色の瞳がきらめいた
アリスは息を吸い込んだ
ああ・・・どれほどこの瞳に見つめられたかったか、初めて彼と見つめ合った時の高まりが蘇る。圧倒的なリアルな彼の存在は、アリスの空想などおぼつかない
北斗の前をかすめて低音の鍵盤へ腕を伸ばし、ぎこちなく久石譲の 「summer」の前奏を弾いた
北斗は鍵盤の上を軽快に動くアリスの指先を見つめた。ほっそりと長い指の先に綺麗に整えられた、ピンク色の透明のマニキュアが光っている
アリスが息を弾ませて弾き終わり楽しそうに北斗に笑いかけた
「しばらく練習してないからしかたがないわよね。でも音楽教師としては言い訳できないわ」
北斗はアリスが手を置いていた鍵盤に指を乗せた
「間違ってたら教えてくれ」
北斗はアリスが弾いた旋律をみごとに正確に、頭に呼び起こし鍵盤を押さえて音を奏でた
なんて素晴らしいの!ワクワクで心が躍る。北斗に合わせて一番高いコードでアリスも弾き始める
彼の音で覚えると言うのは本当なのだ、二人は連弾しつづけ、アリスは笑い出した
顔を横に向けて彼にキスしたいが、演奏の途中でやめることはできない。もどかしいが最後まで弾き終えなければ、これは初めての二人の共同作業なのだ
最後は二人で見つめあって演奏を締めくくった、北斗が踏んでいるペダルのせいで、音の余韻がやけに長く感じた
じっと見つめ合い・・・とうとう北斗がペダルを離した
ああっ!会った瞬間からこうせずにはいられない!
アリスは彼の首に飛びつき、自分の方から彼の唇を激しく奪った
彼はしっかり受け止めてくれた。獣のような唸り声を喉の奥で鳴らし、アリスを持ち上げて自分の膝の上にのせた
あれほど恋焦がれていた彼の唇をアリスは夢中で吸った
彼は優しくアリスの髪を撫でて、口を開けて歓迎してくれた。すばやくアリスは舌を彼の口の中に滑り込ませた
彼に教わったやり方だ
ああ・・これが欲しかった・・
素敵・・・素敵
彼の舌はアリスの正気を失った、濡れた唇はアリスを熱狂させた。彼がアリスの舌を吸うと魂まで吸い出されるようだ
アリスは全く遠慮のないキスをした
攻撃的で
奔放に
飢えたように
彼の口をむさぼった
彼はかすれた声で低くうなった
彼とのキスは魔法のように心をそそり、股間がトロリと熱くなる。アリスの中では嵐が荒れ狂い、どんどん高みへと押し上げ切なく胸を締め付ける
ようやっと口を離した時その瞳はきらめいていた
彼も飢えが満たされた時に募った男性の表情をしていた
ハァ・・・
「またキスをしてはいけないと言われると思ってた・・・ 」
アリスはクスッと笑った
「キスをしてはいけないと言ってもあなたはするんでしょう? 」
北斗はしばらくじっとアリスを見つめた
「ああ・・・する・・・ 」
「あなたは私に会いにここに来てくれたのよね?」
「君に会いに来た 」
「私の手紙を読んだのね?」
「ああ・・・読んだら居てもたってもいられなかった、ここを見つけるのは簡単だった。君は音楽が好きだから」
「もう一度キスして 」
北斗は返事もせず即座にアリスを引き寄せて唇を重ねた
ああ・・・
この人は私の手紙を読んで海の上を飛んできてくれた
アリスも彼の首に腕を回し、舌を差し入れ、彼の後頭部の刈り上げを逆なでした。ゾクゾクと彼が身震いしたのがわかった
彼に突然体を持ち上げられ、ピアノの屋根の上に仰向けに寝かされ、アリスの脚が鍵盤にだらんと垂れた
ハイヒールを優しく脱がされ、足のつま先が鍵盤に当たってポロンッ♪とC♯の音が出た