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「違う……あれは、僕のせいじゃない……」
僕は、血の色の文字が並ぶPCモニターから目を逸らした。
だが、視界の端に映るオフィスの一角
かつて部下の山下が座っていたデスクが、異常な速さで変貌していく。
デスクの上に置かれた観葉植物が枯れ落ち、代わりに一台の「ひしゃげた自転車」が忽然と現れた。
「あ……」
喉の奥が熱くなる。
スピーカーからのノイズが、雨の音に変わった。
激しく地面を叩く、あの日の夜と同じ雨音。
『……佐藤さん。助けてください』
背後から聞こえてきたのは、伊藤の声ではない。
若く、どこか頼りなげな、山下の声だった。
3年前。
僕と伊藤は、大きなプロジェクトを成功させ、祝杯を挙げた帰り道だった。
伊藤の運転する車が、激しい雨の中で何かを撥ねた。
鈍い音。そして、アスファルトを滑る自転車の金属音。
「……見に行こうって、僕は言ったんだ」
独り言のように、僕は呟いた。
助手席で凍りついた僕に、運転席の伊藤は血走った目でこう言ったんだ。
『見ろよ、誰もいない。今ここで降りたら、俺たちのキャリアは全部終わりだ。お前だって共犯になるんだぞ、佐藤。いいのか?』
僕は、何も言えなかった。
ただ、バックミラー越しに、雨の中に倒れる影をじっと見つめていた。
それは動こうとして、やがて動かなくなった。
翌朝のニュースで、それが同じチームの部下、山下だったことを知った。
彼は残業を終え、僕たちのために資料を届けようと、雨の中を自転車で走っていたんだ。
『──お前は、僕だと気づいていたはずだ。』
耳元で、山下の冷たい声が囁いた。
オフィスの床が、ぬるりとした雨水と血で満たされていく。
「気づいて…いた。あの時、あのコートの……色は……」
僕は震えながら、足元に落ちている山下の「ひしゃげたメガネ」を見つめた。