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「すみませんね、アンジェロ。呼び出してしまって」
「いえ、副団長からがお呼びとあれば!」
私は気をつけの姿勢を取る。ここは副団長の執務室。いるのはアルフレド副団長と、私のみ。
「まあ、座ってください」
「失礼します」
応接机を挟んで座る。私が呼ばれたのは、昨日作った魔法杖のことかしら?
「物凄く今更なのですが、面談をさせていただく」
アルフレドの眼鏡が光った。面談……?
「人手不足とドタバタで、きちんとお話していませんでしたから。同じ騎士団にいるわけですから、団員のことは知っておきたいのです。……万が一、あなたの身に何かあった時、報告すべき家族などがいるなら、通知せねばいけませんからね」
家族、通知――ドキリとさせられる。うん、これ対応間違えると、お終いなやつだ……。
「まず、アンジェロ。こちらの紙に記入していただけませんか? 字が書けないなら口頭でも構いませんが……と、愚問でしたね。貴方は字は書けるはずだ」
近くに置いてあるのは、昨日私が試作した魔法杖の一本。そこに刻まれた魔法文字を見れば、文字が書けると予想できる。
実際、魔法を覚える時、呪文も覚えるので、文字の読み書きができるのが普通だ。
羽根筆の先をインク瓶に突っ込み、紙に記入していく。
ここまでなかったから、ラッキーだと思っていたけどやっぱり避けられなかった。それ故、ちゃんと考えてはいたのよね。
偽プロフィールについて。ただ、これには段階があって、まったく魔法が使えない一傭兵で通す場合と、ある程度魔法が使える傭兵ないし冒険者で、設定も違っていたりする。
今回記入するのは、明らかに後者設定だ。
名前、年齢、出身、家族構成、職業などなど……。ちら、とアルフレドを見れば、彼も私をじっと観察していた。
「何か?」
「いえ……」
平静を装え。別に疑われているとか、そうではない。新入り団員の情報確認よ、それだけ……。
「できました」
「はい、ありがとうございます。……確認するので、席に座ったままで」
用紙を眺めるアルフレド。記入漏れがないかの確認だろうけど、待つのは緊張する。だって、私からすれば明らかに虚偽だもの。嘘をついていると思っていないだろうけど、バレたら間違いなくいけないものだから。
「アンジェロ・バナーレ。……なるほど、魔術師の家系ですか」
アルフレドは口を開いた。
「魔法は家族に教えてもらったのですか?」
「はい、母に」
「そうですか。……バナーレという名前の魔術師は聞いたことがありませんね。高名な方だと思っていたのですが。――メイア・バナーレ」
私専属のメイドであるメイアから名前を借りた。
「失礼。家族構成は母のみ。父親は……亡くなられたのですか」
「冒険者をやっておりまして。ボクが幼い時に」
「なるほど。出身は……クイント村」
「辺境です。王国の東の果てです」
「ふむ、私はクイントという村を初めて聞きましたが、どのような村ですか?」
「ド田舎です。人口30人くらいの小さな村です。近場に森があって、魔獣が村の近くに出没するようなところです」
「冒険者の出番ですね」
アルフレドはクスリと笑みを浮かべた。
「貴方が冒険者になったのは、父親の影響ですか?」
「はい。村では、父は英雄みたいなものでしたから」
そわそわしてしまう。設定上の家族の話は、思いっきり嘘なので、落ち着かない。本当の両親は王都で健在だもの。
「冒険者登録も地元のギルドで?」
「いえ、村には冒険者ギルドはありませんでしたので」
「そうですね……。人口30人くらいの村にギルドはさすがにありませんね」
一瞬ヒヤリとした。まるで引っかけみたいな質問だった。これ、やっぱり疑われているのかしら……?
「ちなみに、ここにはひとりで来られたようですが、冒険者同士パーティーは組まなかったのですか?」
「以前は組んでいたのですが、長続きしなくて」
「そうですか。……失礼ながら、冒険者として上手くやれていましたか?」
「大きな失敗はしていないので、まあまあ、ですかね。すみません、なかなか客観的に判断できなくて」
「いいえ。案外、自分のことは周囲からどう評価されているかわからないものですからね」
「そうですね」
愛想笑い。……まだ終わりませんかねー、これ。
「村を出たのはいつ頃ですか? 冒険者になったのは?」
「えぇと……4年くらい前ですね。村を出て、最寄りのギルドで登録して。しばらくその近辺で活動しました。対人関係でギクシャクしたので、そこを離れて、あとは転々としていました」
「そこからはほぼソロですか?」
「臨時加入メンバーという感じで参加していましたが、専属としてではないのでソロになりますね」
「そうですか」
アルフレドは黙り込んだ。……そこで無言になるのやめてほしい。何かヘマしたんじゃないかって、スゴくドキドキする。万が一、正体バレ、性別バレしたら、レクレス王子のもとにはいられなくなってしまう!
「またまた失礼な質問ですが、家庭での生活はどうでしたか? 裕福でしたか? それとも貧困でしたか?」
これはどういう意図? 裕福、と答えたら、冒険者という職業を選んだことに違和感をもたれるかしら?
母ひとり、子ひとりの家庭で裕福というのは、父が影響するだろうけど、これまた普通の冒険者という設定だ。上級冒険者にしてしまうと、知名度で違和感をもたれて、さらに調査でもされたら嘘がバレてしまう。母の魔術師というのもそう。
「アンジェロ?」
「あ、いえ。すみません。間違っても裕福ではないですが……村ではそこまで経済的に貧しかったという記憶はありません」
多すぎず、少なすぎず。特徴がないのが特徴。
しかし私は、嫌な予感が拭えない。アルフレドが質問するたびに、よくない方向へ追い込まれている気がする。
「ねえ、アンジェロ。貴方のお母さんの出身はご存じですか?」
「母の、ですか……?」
そこにツッコミが入るのか!
「ええ。生まれは……その、クイント村でしたか。それともどこか他の土地から移り住んだのでしょうか?」
これも何を言わんとしているのかわからない。これ適当に答えて大丈夫? 答え次第でダメなやつもない?