ギラギラと日が照る日中。涼しさを求め、冷房のよく効いた場所へ向かう国も少なくはなく。涼しく静かな場所として、図書館を選ぶ者も多い。シルクハットに燕尾服という、見ているだけで暑く感じるような服装をした青年は革靴をコツコツと鳴らしながら足早に図書館に向かった。
「暑い…」
ふと零れ出るように出た声は以外に低いようだ。
扉を開けるとフワリと冷たい風が吹き付け、太陽の光により熱くなっていた肌が一気に冷えた。
ふぅ、と一息つき図書館の奥の方にあるお気に入りの本を取りに行く。手袋越しでもわかるゴツゴツとした指で分厚い本を取り、冷房の当たる席に座った。
何度見ても興味深く、飽きが来ない。本に集中しのめり込んで居たとき見覚えのある男に気がついたようで本を読み進める手が止まり、目線を彼の方に向けた。が、すぐに目線を本に戻し読み始めた。
その男は数冊本を手に取りフラフラと不安定な足取りで席を探している。目についたのは室内でもシルクハットを外すことなく本を読み続ける青年の近く。チッと舌を鳴らしイライラした様子で近くの席についた。軽く乗せているだけのベレー帽を外し、すぐ近くに置いた。
「…」
知り合いであるにも関わらず言葉を交わさないことから親密なようには見えない。
シルクハットの青年は男が持ってきた本の題を見て疑問を浮かべた。
「絵の描き方…?」
私の画力は素晴らしい、と普段豪語しているのに絵の描き方という本を読むことに違和感を覚えた。
ベレー帽の男は声を出したシルクハットの青年が不快だっのか一瞬目を向け睨むような様子を見せた。
「何でソンナ本を読んでいるんですか?」
純粋な疑問を投げかける。
「…私の存在意義を探す為に…」
かすれては居るが、言葉ははっきりとしている。
「無いですよ…」
「嗚呼…そうだな…」
目を伏せて言っては、ベレー帽を手に取り深く被った。
シルクハットの青年は予想外の反応に驚いたが気にしてはいけないと思い、目を逸らした。
真っ黒のサングラスを掛け、瞳の奥が見えない若い男は息を呑んだ。息抜きに、と一人来てみたものの嫌いな彼奴が居たからだ。背中に嫌な汗が通り、気持ちが悪い。
「嫌だッ…!」
手で口元を抑えて、壁や棚を反対の手で支えに使い、おぼつかない足取りで外に出ようと歩みを進める。身体に残る傷がズキッと痛む気がして。ここで会うと思っていなかったからよりキツイ。
すると、
「御前ハこんな所デ何をしテ居るんダ?」
ニコ〃と怪しい笑みで近づいてきたのは中華チックな格好をした男性。隣には更に一回り背の高いウォッカを持った大男が居る。
「五月蝿ぃ…」
余りちゃんと声を出せる様な気力は、サングラスの若い男には無い。
「死にかケかァ〜〜?」
急にハイテンションに成る中華チックな男性。かと思えば、ボソボソと
「早くくたばっておけよ」
言ったりもする。可怪しいのは明らかだ。
「大丈夫か?」
酒焼けしていてガサつい声で男性に声を掛ける。
「嗚呼。気にするなヨ?問題無いサ!」
途中でまたハイテンションに成ったのか、急にトーンが変わる。ウォッカを持った大男は小さく頷いただけでそれ以上喋る様子は無い。