テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
俺が村に戻ると、物々しい雰囲気に圧倒された。ギルドの前に止まっている馬車は、貴族が乗る物でも最上級の物。
それを挟むように二台の馬車が止まっていて、更にその周りを馬に跨る騎士たちが囲っているといった状態。そのいずれにも見たことのない家紋のようなものが描かれていた。
ギルドには規制線が張られ、関係者以外立ち入り禁止だと言わんばかり。それを遠くから見ている村人たちはただの野次馬なのだろうが、何が起こるのかとそわそわしている様子はいつもと変わらない。
こういう時は決まって俺絡みであることは明白なので、その視線はおのずと俺へと向けられるのは必然であった。
明らかにネストでもバイスでもない。ましてや王族であるリリーでさえ、こんな仰々しく訪れることなどあり得ない。
郷に入っては郷に従え……という訳ではないが、俺を知っている者は弁えてくれているし、もちろんそれには感謝している。
ワダツミから降りてその一団へと近づくと、ギルドの入口を封鎖していた騎士たちは何も言わずに道を空けた。
食堂は当たり前のように人払いがされており、客用のテーブルに頬杖をついていたのはソフィアとレベッカだ。
「あっ、九条さん。おかえりなさい」
どこか心配そうな表情を浮かべていたソフィアは俺を見ると、ホッとしたのか硬い顔つきがほんの少し解れた。
レベッカは憤っている様子。恐らく店を強制的に閉めることになってしまったためだろう。
俺のせいではないと言いたいが、それも相手の出方次第といったところか……。
少なくともこれが終わったら機嫌を取らなければならないことを考えると、俺を訪ねてきた貴族にはガツンと言ってやりたい気分ではある。
「九条様! お待ちしておりました!」
ギルドへの階段から顔を見せたのは、見たことのある初老の執事。
「セバスさん!?」
そこにいたのはアンカース家の執事長であるセバス。そのまま階段を駆け降りると、俺の前で頭を下げた。
「お久しぶりで御座います。九条様」
「ご無沙汰してます。……セバスさんがいるということは、ネストさんもご一緒ですか?」
「いえ……。お嬢様は多忙の身。わたくしはその代理で御座います。面会許可証だけでは会っていただけないかと憂慮されまして、わたくしめが遣わされた次第で御座います」
さすがはネストだ。俺の性格を良くわかっている。それはネストが面会を許可しただけであって、最終的な判断は俺に任せられる。
許可が出たからといって、百パーセント会えるとは限らない。それは一次審査に通っただけに過ぎないのだ。……と、声を大にして言いたいのは山々であるが、半分は冗談である。
どちらにしても、タイミングが合わなければ会うことは出来ない。遠くに遠征に行っているかもしれないし、別の依頼で手一杯ということもあるのだ。
まあ、一番可能性として考えられるのは居留守であるが、それを防止するためのセバスなのだろう。
「是非、九条様に会って話がしたいと申されている方がおりまして……」
「誰です?」
「それは直接会っていただければ……。わたくしの口から言えることは、今回の件に少なからず関わっているということだけ……。現在はギルドの応接室にてお待ちで御座いますので……」
「しつこいようで申し訳ないですが、ネストさんが許可したんですよね?」
「もちろんでございます。もし九条様が会って下さらなければ、わたくしは路頭に迷うことに……」
「そんなことでクビですか!?」
#ファンタジー
#ファンタジー
しめさば
「いえ、違いますが?」
「でも、路頭に迷うって……」
「まだこちらに宿を取っていないので、このままでは野宿にという意味で……」
「そんなことかよ……」
「ぷぷっ……」
セバスと俺とのやり取りに吹き出すミア。笑っちゃダメだとはわかっているので必死に我慢したようだが、不意を突かれて堪えきれなかった様子。
声こそ出さないものの、ぷるぷると震える肩を見れば、下を向いていても笑っていることは一目瞭然だ。
それを見てもセバスの表情は微動だにしない。わかってはいるのだ。セバスは最初からこういう人だった。悪い人ではないのだが、なんというか真面目に話していると調子が狂う。
「わかりました。ひとまず会ってみましょう」
セバスに連れられ応接室の扉をノックすると、返事は聞こえず扉だけが勝手に開いた。
開けたのは部屋の中にいた一人の騎士。頭を下げて部屋へと入るセバスに倣い、同じように部屋へと入る。
「そこへ掛けたまえ」
部屋に入るなり俺に命令したのは、偉そうな貴族の中年男性。金髪碧眼で肩まであろうかという髪を後ろで縛っている。その風貌は傲慢不遜がそこに座っているかのよう。
雰囲気はブラバ卿に似ているが、体格は正反対。武芸に秀でているようにも見える体格の良さ。憤っていると見間違うほどの凛々しい顔立ちは、中年特有のシブさが垣間見える。
俺には確実に無理であろう威厳の塊といったような男だ。
一緒に応接室に入って来たワダツミが気になるのか、チラチラと視線を泳がせているのが隙を見せないようにと強がっているようにも見える。
恐れているのか、興味があるだけなのか……。ただ、それをすぐ追い出そうとしないところは好感が持てた。
「初めましてであるな。私は、ブライン・ディ・ニールセン。ミスト領の領主と言えばわかるだろう」
それを聞いて眉を細める。ミスト領のニールセン公。第二王女の派閥に属し、ノルディックに兵を貸し与えた男だ。
ノルディックの計画を知らなかったとはいえ、よくこの場に顔を出せたものである。
バイスは確か公爵だと言っていたはず。貴族の中ではトップレベルの権力保持者だ。
それがなぜこのような場所に来たのか……。俺を呼び出す訳でもなく、さらには代理人を寄こす訳でもない。
トップレベルの大貴族が自分から来訪してくるだけの礼儀は備えていることから、一方的ではなく話し合いの体裁は保てるような気はする。
「俺はお前に用はない。さっさと帰れ」と言うのは簡単だが、これは子供の喧嘩じゃない。
ルールに従い、ネストに話を通して来たのならば、聞くだけは聞こう。
ネストとセバスの顔を立ててやるだけ。これが常識的な話し合いにならなければ、その時点で俺は席を立つつもりでいた。
「初めまして。冒険者の九条です」
笑顔は出さず、真顔で最低限の挨拶をして握手を求める。
一瞬だが、顔を強張らせるニールセン公。恐らく見下しているためだろうが、意外なことにニールセン公はその手を取った。
軽い握手であったが、やはり常識は兼ね備えている。
当たり前のことなのだが、それが出来ない者が多いからこそ感心してしまう。
「ご用件を伺いましょう」
「その前に、一ついいかな?」
「なんでしょう?」
「後ろの従魔たちを下げてもらっても?」
「あなたの後ろの護衛を下げてくださるなら考えましょう」
「……もっともだな。おい、お前たちは外で待機していろ」
「「はッ!」」
頭を下げ、部屋を出て行くニールセン公の護衛騎士。
それを見たカガリとワダツミは、何も言わずに部屋を出て行く。
「ほう。なかなか訓練されているな」
「どうも……」
「できれば担当も席を外してもらえると助かるのだが……」
「ギルドを通しての依頼ではないということであれば」
「ああ、そうだ。出来れば二人で話がしたい」
「ミア、すまないが席を外してくれ」
隣に立っていたミアもペコリと頭を下げ、部屋を後にした。
その申し出を断ることも出来たが、ニールセン公の表情がそれをさせなかったのだ。
まるで今すぐ戦いに赴くような威容。その真剣な眼差しに気圧されてしまったというのが、正直な感想であった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!