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アプリのアイコンが消え、画面がただの漆黒に戻る。それと同時に、俺の胸の中に残っていた「過去への執着」のような重苦しい塊が、すーっと霧散していくのを感じた。
「……本当に、終わったんだな」
ポツリと漏らした言葉に、膝の上に座るヘカーティアが、愛おしそうに首を傾げて微笑む。
『ええ。司様を苛んでいた愚者どもは、永遠の闇の中へ置き去りです。もう二度と、あの方々が司様の視界に入り込むことも、その清らかなお心を煩わせることもございませんわ』
彼女は俺の頬にそっと柔らかい手を添え、優しく撫でてくれた。
異世界に残された神条たちの末路なんて、もう知る由もない。
白石や佐藤たちは、地球のどこかで静かに、けれど力強く自分の人生をやり直しているはずだ。彼らが俺の前に現れることも、おそらく二度とないだろう。
「よし……」
俺は一息つくと、テーブルの上のシャンパングラスを掲げた。
「過去のお掃除はこれでおしまいだ。これからは、世界中を驚かせる俺とヘカーティアの天下だな」
『はいっ! どこまでも司様について参りますわ!』
ヘカーティアも自分のグラスを重ね、チンと澄んだ可憐な金属音がスイートルームに響き渡った。
◇
数日後。東京ドーム。
「——紳士淑女の皆様! お待たせいたしました! 今夜、世界の常識を塗り替える奇跡のイリュージョニスト……近衛 司の登場です!!」
満員の観客席から地鳴りのような歓声と拍手が巻き起こる。
ステージを照らす眩いスポットライト。カメラのフラッシュの嵐。
黒の完璧なタキシードを纏った俺と、その隣で星空のようなドレスをなびかせる可憐な助手、ヘカーティア。
俺は不敵な笑みを浮かべ、観客に向けて深々と一礼した。
胸の中にあるのは、かつて屋上で感じていた絶望や冷たさではない。
これから世界を自分の手で塗り替えていくという、圧倒的な全能感と高揚感だけだ。
「種も仕掛けも、一切ございません——」
指をパチンと鳴らすと、ドームの天井全体が夜空のように輝き出し、無数の光の華が舞い散った。
観客から湧き起こる、今日一番の大歓声。
俺たちの新しい物語は、今この瞬間から、どこまでも華やかに始まっていく。
コメント
1件
「過去への執着が霧散していく」感覚、すごく伝わってきました……。あの重苦しい塊が消えた瞬間、私も一緒に息ができたような気がしました。ヘカーティアの優しい仕草も、本当に愛おしくて。最後の東京ドーム、全能感に満ちた司様の姿がまぶしくて、でもその裏にある苦しみを知っているからこそ、胸が熱くなりました。新しい物語の始まり、本当に綺麗でした。🥀