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(ああ……身体が、軽い…)
意識が真っ白な光の海に溶けていく。
自らの命を、魔力の最後の一滴まで絞り出し
彼を縛る呪いの鎖へと叩きつけた瞬間、私の世界からは重力が消えていた。
視界の端で、絶叫しながら手を伸ばすルネサンスの姿が、遠ざかる銀河のように小さくなっていく。
「ヴィル……っ!ヴィルゥゥゥ!!」
夜の底を突き破るような彼の咆哮が、形を失いかけた私の魂を繋ぎ止める唯一の楔だった。
視界を埋め尽くしていた雪の結晶のような燐光がゆっくりと霧散していく中
私は実体のない意識だけで、冷たい夜の荒野を見下ろしていた。
そこには、無残に砕け散った馬車の残骸と
冷たい夜風に吹かれて無力に舞う、私のドレスの切れ端だけが遺品のように残されている。
私の姿は、もうどこにもない。
自らの命の輝きそのものを奔流に変え、彼を蝕んでいた「死の呪い」を強引に引き千切るために
私は光の粒子となって夜の闇に消えてしまったのだから。
「くくく……はははは!見ろ、これぞ愛という名の愚行が招いた末路だ!依代の女は消え失せ、君に残されたのは、今夜という刻を越えることなく燃え尽きる、惨めな命の残滓だけだ!」
バルザールの、耳を汚すような狂った嘲笑が聞こえる。
動けない私に代わって、誰か彼の心を救って。そう祈った瞬間だった。
ルネサンスの全身を包み、死へのカウントダウンを刻んでいたあの禍々しい「赤黒い熱」が、一変した。
彼の足元から、不浄を焼き尽くすような透明な蒼い炎が、天を衝くほどの凄まじい勢いで吹き上がったのが見えた。
「……バルザール。貴様は、致命的な計算違いをしたな」
重い動作で、けれど力強く立ち上がる彼の背中。
その蒼い瞳からは、もはや絶望の濁りは消え去っていた。
私が最期の瞬間に彼の中に流し込んだのは、単なる魔力の補給などではない。
冷徹な仮面の下に隠していた彼の孤独を抱きしめ
忌まわしい呪いさえも愛おしい温もりへと変質させてしまうほどの、一点の曇りもない
私の、真実の愛。
『命を懸けて守りたい存在との、真実の口づけ』
それは唇を重ねるという次元を超え、二人の魂が剥き出しで重なり合い
互いの嘘をすべて脱ぎ捨てたあの瞬間に、呪いを解くための苛烈な条件は満たされていたのだ。
彼を苦しめてきた「死の呪い」は今、愛する者を守り抜き
この理不尽な世界に抗うための「絶対的な守護の力」へと昇華していた。
「彼女は消えてなどいない。私の血の中に、絶えることのない鼓動の中に、……そして、この燃え盛る炎の中に、彼女は生きている」
ルネサンスが右手を虚空へ掲げると、周囲の大気が一瞬にして凍りつき、同時に猛烈な勢いで燃え上がった。