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数日後。
王宮の一室――リネアは、深く眠っていた。
戦いのあと、彼女の体は安定していなかった。
過剰な煌の解放。
しかも、それは“核の煌”――本来、ひとつの命では抱えられない力。
アリアはリネアのそばを離れなかった。
ずっと手を握っていた。
そんな彼女に、レイヴンが静かに語りかける。
「……覚えていますか、アリア様。
“初めて煌を発した日”のことを」
アリアは目を伏せる。
「忘れたことなんて、一度もないわ」
***
10年前――アリア、6歳。
まだ「煌王」と呼ばれる前。
“煌の色”を持たない無名の王女だった。
五番目の子として生まれ、王家の誰にも期待されていなかった。
兄姉たちは皆、煌を発現していた。
赤・青・緑……それぞれに“色”を持ち、未来を与えられていた。
だが、アリアは違った。
色がなかった。
煌もなかった。
彼女は、名前だけが美しいだけの「飾り」だった。
「……アリア。今日は、また煌の診断、落ちたんだって?」
「かわいそうにね。あの子、母親もいなかったし……」
「ま、せいぜい飾りとして生きていけばいいんじゃない?」
兄姉たちの言葉は、刃だった。
けれどアリアは――一度も泣かなかった。
泣いてはいけなかった。
「涙を流せば、もっと“いらない子”になる気がして」
その夜。
ひとりで庭に出たアリアは、夜空を見上げていた。
月は白く、雲もなく、
ただ静かに“ひとり”の夜だった。
そのときだった。
――火災。
城の地下から、何かが爆発した。
火の手が広がり、警報が鳴る。
使用人たちが叫び、兄姉たちが逃げ惑う。
そして、炎の中。
アリアの前に、
一人の赤子が――泣いていた。
「……誰……?」
その子もまた、“煌の色”を持たない。
名も、記録もない、存在してはいけない“落とし子”。
その時、アリアの中で何かが燃えた。
「――この子を、守らなきゃ」
瞬間、アリアの身体が光に包まれた。
七色の煌――
赤、青、緑、金、紫、銀、白。
それらすべての煌が、同時に彼女からあふれ出た。
王家の記録に、そんな前例はない。
あの夜、炎の中で王宮を守った光――
それが、後に“煌王”と呼ばれる者の始まりだった。
でも――
アリアは、そのあとも一度も泣かなかった。
「私が泣いたら、みんなが崩れる。
私は、“涙を持たない王”にならなきゃ」
そうして彼女は、感情を封じたまま生きてきた。
***
現代。
レイヴンは静かに言う。
「アリア様……もう、泣いていいのです。
あの夜守った赤子は、今――あなたの隣で生きています」
アリアは、眠るリネアの頬に手を添える。
「……そうね。
“あの子”だったんだ。
あの時、私が守った“名もなき子”……それが、リネア」
その瞬間。
リネアの目が、静かに開いた。
「……アリア様……?」
「――おかえり、リネア。
そして、ごめんなさい。私、今、ちょっと……泣いてるの」
リネアの目からも、涙がこぼれた。
そして、部屋の中にほんのわずかに――
“七色の煌”と“白い核”が共鳴する音が響いた。
***
だが、その響きは――遠くの闇にも届いていた。
黒い玉座。
ギルが立ち上がる。
「……アリアが泣いた。
核と煌が、完全に共鳴を始めた」
クレイズ・アークライトが立ち上がる。
「そろそろ、“始まりの場所”へ行く時だな。
――“煌の眠る丘”へ」
そして、全ての“煌”と“影”が、交わる日が近づいていた。
👑To be continued…👑