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雨の日の部活の帰り道。
部室の鍵を職員室に返し、萌奈は早足で昇降口に向かった。
「鳴海くん、お待たせ」
一緒に帰っている蒼真が、曇天から降り出した雨を見上げていた。
「あっ降ってきたねー」
「…そうだね」
萌奈は急いで上履きから靴に履き替えた。そして傘立てから自分のミルキーブルーの傘を手に取った。
「帰ろう」
萌奈はワンタッチで傘を開いた。蒼真はそんな萌奈をじっと見ている。
「鳴海くん、もしかして、傘を忘れた?」
「…うん…」
「じゃあ、一緒に入って帰ろうよ」
「…いいの?」
「途中までだけど、どうぞ」
萌奈は傘を差し出し蒼真分のスペースを開けた。「ありがとう」そう言って蒼真は萌奈の隣に入った。やはり、一つの傘をシェアするとだいぶ窮屈だった。蒼真のほうが身長が高いから、萌奈は必死に腕を上げた。それに気が付いた蒼真が、さっと傘の柄を持った。
「俺が持つよ」
「うん、よろしく」
萌奈は蒼真に傘を渡した。
部活のこと、天気のこと、いつも通りの何気ない会話をしているが、萌奈はちょいちょい集中力が途切れていた。なぜなら、歩くたびに体がくっついたり離れたりを繰り返しているから。毎日、一緒に帰っているけど、こんなに接近するのは初めてだった。萌奈は心臓がドッキンドッキンとうるさくて、会話に集中ができなかったのだ。
「じゃ、ここで。傘、ありがとう」
蒼真が萌奈に傘を差し出した。
「うちは近いし、よかったら鳴海くん使ってよ」
「走れば大丈夫だから。藤川、ありがとう」
蒼真が背中を見せて走って帰ってゆく。その右肩が雨にぬれて色が濃くなっていた。萌奈は自分の肩を確認したが、ほぼ濡れてはいなかった。
(私を優先してくれていたんだ
やっぱり優しいなぁ
はぁ、また好きになっちゃうよ…)
萌奈はぽわーっとして、幸せな気分で帰路についた。
♢
「蒼真っ、びしょ濡れじゃないの。なんで傘をさしてこないのよ!」
蒼真の母が濡れた制服を見ながらそう言った。
そこにリビングにいた姉が口を挟んだ。
「蒼真はロボットとばかり向き合っているからストレスが溜まって、雨に打たれたくなったのよ」
「っうるさい」
タオルで髪の毛を拭きながら面倒くさそうに蒼真が答えた。
「ロボット相手になにが楽しいの?たまには生身の女子とも触れ合ったほうがいいわよ」
姉が真剣な顔で説教をした。
「余計なお世話っ」
蒼真はふてくされて二階へ行ってしまった。
母は濡れた学生服を干してから、蒼真のカバンも拭き上げた。そしてカバンを開けて中からあるものを取り出した。
「折りたたみ傘は入れてあるのに、なんで使わなかったのかしら?」
萌奈と触れ合いたかった、という蒼真の心を知るものは誰もいなかった。
ーおしまいー