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5話 「市場の片隅で」
王都での依頼帰り、ミリアと一緒に市場を歩いていた。
石畳の通りには香辛料の香りが漂い、露店では果物や肉が山積みになっている。
「やっぱり王都は物が多いわね。見て、こっちのパン、辺境じゃ絶対手に入らないわよ」
「パンより昼寝がいい」
「……あんた、王都に来た意味ある?」
くだらないやり取りをしながら歩いていると、ふと路地の奥から金属が軋む音がした。
振り向けば、小さな檻。その中に、一人の少女が座っていた。
銀色の髪は埃まみれで、膝を抱えた姿は小動物のようだ。
だが、その瞳――氷のような薄青色が、真っ直ぐ俺を射抜いた。
怯えているはずなのに、負けない意志の光がそこにあった。
「……どうかしました?」
ミリアが不思議そうに覗き込む。
「いや、なんでもない」
俺は視線を逸らし、そのまま歩き出す。
関われば面倒になる――それが長生きと昼寝の秘訣だ。
だが、背後から視線を感じる。
振り返らなくても分かる。あの少女だ。
檻越しに、俺の背中をじっと見ている。
「……何見てんだか」
心の中でそう呟き、俺は市場の喧騒に紛れた。
けれど、その目の輝きがなぜか脳裏から離れなかった。
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