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「…………。」
何も言えなくて、黙り込んでいると、
「……気づいたんだ」
と、彼が口を開いた。
「……何に、ですか?」
それだけを問い返す。
「……車がぶつかりそうになったあの時、君を失いたくはないと……」
左胸に押し当てられた耳越しに、彼の鼓動が早まるのが聴こえる。
「私は、もう誰も、失いたくない……」
抱かれる腕に、きつく力が籠もる。
「…………。」切なさに胸が締め付けられるようで、無言でその顔を見上げると、
真摯に見つめる彼の眼差しとかち合った──。
「……どこにも行かないでくれ、君はどこにも……」
「行きませんから、私は……」
彼の背中におずおずと腕を回して抱きつくと、
薄明かりの街灯の下、厚く広い胸にそっと顔をうずめた──。