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ひだまり書房連作短編集
― 穏やかな本屋と4人の日々 ―
第一話 出会いの春「ひだまり書房へようこそ」
春の午後、商店街の一角にある小さな古本屋「ひだまり書房」に、瑞樹は暖簾をくぐった。
木の香りがほのかに漂い、窓際の机では蓮が静かにページをめくっている。
カウンターの奥からは、隣のカフェの店主・悠真がコーヒーを運んできた。
そして、ドアが開くと、カメラを首から提げた司が入ってきて笑った。
「ほら、みんな揃ったな」
この日から、穏やかな日常が少しずつ形を作り始めた。
第二話 夏の午後「ガラス越しの陽射し」
夏の陽が窓から差し込み、棚の上の古書の背表紙を照らしている。
蓮は詩集を抱えて席を移し、悠真は冷たいアイスコーヒーを置いていく。
司は「夏は光がいい」と言ってカメラを構え、瑞樹はレジで帳簿をつけていた。
商店街の外は蝉の声が響くが、この店の中は別世界のように静かだ。
本と会話と、時々の笑い声がゆるやかに混じっていく。
第三話 秋の夕暮れ「落ち葉のしおり」
商店街を歩く途中、瑞樹は落ち葉を一枚拾った。
それは、まるで本のしおりのように赤く色づいている。
蓮はそれを受け取り、手元の本に挟んだ。
司は夕暮れの光を撮影し、悠真は「秋限定ブレンドだよ」と新しいコーヒーを淹れる。
小さな変化と季節の香りが、店に静かに流れていった。
第四話 冬の夜「雪の足跡」
商店街に雪が降る夜、4人は閉店後の店に集まって温かい飲み物を囲んでいた。
外から見えるガラス戸には、昼間の客たちが残した雪の足跡が続いている。
司が「明日も雪景色が撮れるな」と言い、
蓮は黙って窓の外を眺め、悠真はスープを配った。
冬の静けさは、どこか温もりを含んでいた。
第五話 商店街の小さな騒動編「迷子と看板」
ある日、蓮が柴犬を抱えて現れた。首輪には「ポチ」と名前札。
商店街で迷子になったらしい。
飼い主を探しに行くと、店の看板がなくなっていることに気づく。
風で飛ばされ、八百屋の前に立てかけられていた。
犬も看板も無事に戻り、夕方には店内で笑い声が響いた。
第六話 蓮の秘密編「詩人のノート」
雨の朝、瑞樹は店先で一冊のノートを拾う。中には詩がびっしり。
持ち主は蓮だったが、彼は「まだ人に見せられない」と言う。
やがてノートを返すと、蓮は「そのうち一編だけお見せします」と小さく告げた。
この店には、まだ知らない物語が眠っている。
第七話 悠真の秘密編「閉店後のケーキ」
夜、隣のカフェで悠真が子ども向けのケーキ作りを練習していた。
失敗作も笑って見せ、最後にひとつだけ上手くできたケーキを差し出す。
「褒めすぎないでくださいね、照れるんで」
その優しさは、甘さと一緒に残った。
第八話 司の秘密編「古いフィルム」
開店前、カウンター下から古いフィルム缶が見つかる。
それは司が10年前に撮った、現像していない写真だった。
やがて現像された一枚には、若き日の司と姉の笑顔。
瑞樹はそれを店の奥の壁に貼り、司は「この店も思い出にしなきゃな」と笑った。
最終話 春の再会「変わらない扉」
一年が巡り、また春が来た。
商店街の空気は柔らかく、ひだまり書房の扉は変わらずそこにある。
本を手にする人、コーヒーを飲みに来る人、
ふらりと立ち寄る人――
その全てが、この店の物語の続きを作っていく。
あとがき
本も人も、長く付き合うほど味わいが深まる。
ひだまり書房には、今日も新しい一日が積み重なっていく。