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「ぐりーとほーる?」
「ああ、世界にはいくつもの「淀み」がある。それは色んな反応を受けて発生する刹那的な反応。たとえば、銃弾が盾によって弾かれる。この時の接触が刹那的なものだ。この時、一瞬の接触の中に稀に「時間や空間、世界を超えて歪みが発生する」本来それは空間を超えて別の世界に及ぼすこと自体、頻繁には起こらないけれど……これが色んな世界、どこでも起きる。篠崎が猫を助けた時は、接触は無かった代わりに、車と接触した篠崎がいる別のパラレルワールドでの淀みが生まれた。それが、もう1つの世界の篠崎に影響を及ぼしたんだと思う。発生した淀みはその場所に溜まると密集し……「グリートホール」つまり、世界同士が繋がる通り穴が生まれる。篠崎はそこに落ちたんだ」
世界同士が繋がる穴。淀み。グリートホール(迎えの穴)。全てが夢物語を聞かせられているような感覚になる。自分はでは、別の世界に来たということなのだろうか……その事のみが知里が呑み込める唯一の結論であった。そして、次に生まれた疑問を無意識に出す。
「帰れるんですか……?私は」
その言葉を漏らす知里の望む答えは、潔の沈んだ表情が物語っていた。
「悪い……俺たち異人(いびと)がここに来る方法は知っていても、帰る方法は知らないんだ…。篠崎が異人として2人目で…まだグリートホール自体ほとんど解明できてないのが現状だから…」
それは知里にとっては死に等しいものだった。自分はこの化け物が蠢く、この廃れた絶望と嘆きが渦巻くような世界で無慈悲にも生身一つで投げ出されたということだ。病室は驚くほど重く冷たい空気が漂う。だが、それを壊す人間がいた。
「なに落ち込んでるのさ、知里!「今」は帰れないだけで、いつかは帰れるんだよ?」
「……ぇ?」
「蜂楽…」
「俺は知里に会えて嬉しい!めちゃくちゃ嬉しい!知里もそんな悲しまなくても、この世界は別に怪物ばかりじゃない…」
そう言いながら蜂楽はどこからともなくサッカーボールを出し空中に軽く投げると、椅子の背に座り器用にボールを足の甲に乗せる。
「楽しいもの、見たことないもの、珍しいもの、面白いもの…色んな「もの」が待ってる!楽しまなきゃ損っしょ!」
「蜂楽……」
「……ばち、らくん?」
「うん!俺、知里にこの世界のもの全部見せたい!俺たちのいや、俺の世界を見せたい!」
サッカーボールを器用にリフティングし、そのままボールを頭に着地させると太陽のような笑顔を知里へ向ける。蜂楽のその様子に思わず潔は、肩を落としながらも口元を緩める。
「それに、潔が何とかしてくれるから知里は帰れるまで俺と一緒に過ごそ!」
「は!?蜂楽!俺に丸投げかよ!」
「…………ぷっ」
「?」
「ん?」
「…ふ、…ふふ……あははははは!」
笑った。蜂楽も潔も同時にそう思った。先程まで、怯えや困惑、悲しみなど負の感情ばかりが顔に出ていた知里が、初めて自分たちに向けた。笑顔。それは、まだぎこちないが先程の様子からは一変しどこか儚さと可憐さがある花が咲いたような笑顔だった。その笑顔を見た。潔は、ほっと胸を撫で下ろした。
「…ぁ、ごめんなさい!その、笑って」
「やっと、笑ったね」
「え、あ…」
「にひひ!ずっと怯えた表情してるからさ!ちょっとだけでも元気が戻って良かった」
「ありがとう、蜂楽くん潔くん」
さっきまでの不安や恐怖、混乱全てが吹っ飛んだ気持ちだった。蜂楽の「いつか帰れる」それだけでも小さな希望だと思ったからだ。楽観的だと思われるが、そうでも自身の心を騙さないとこの先、あのアンデッドなどの化け物がいるこの世界を生きていけないと思ったからだ。
「じゃあ、まず篠崎に俺らの世界の基本知識を教え」
グゥ〜
3人の間に沈黙が起きる。今の音は……思考し続けることが得意な潔でさえも思わず停止してしまう。蜂楽と潔はギギギと錆びた機械のような動きで音の元、知里を見る。張本人の知里は、林檎のように真っ赤になり思わず枕に顔を埋める。
「ごめん!起きてからずっと話っぱなしだったし、さすがにお腹すいてたよな…」
白くトロリとした液体の中に鮮やかにちらばる野菜と肉、漂う湯気からうっすらと匂いが食欲を掻き立てる。匙を取り、ゆっくりと口元へ運び唇の間に白い液体を流し込む。ほっとする優しい味わいが口内を占めるも、知里は未だ羞恥心の境地にいた。
「……お願いします、先程の音は忘れてください……」
「あははは!さすがに、お腹空いてるって…あんだけ話し込んでたら」
「……ううう!」
知里の空腹を知らせる音にすぐさま潔は病室を飛び出し、数分後トレーに匙とクリームシチューを載せたお椀を持って現れたのだ。そして、現在知里は空腹からシチューを流し込みながらも視線を潔らへと逸らす。
「それじゃ、気を取り直して」
そう蜂楽は、パチンと手のひらを合わせる。
「知里に俺たちの世界のことを話すね」
【まず、この世界は10年前に突如として未知のウイルスが出現した。それは、自然発生して現れ俺たちの生活の影にずっと潜んでいたのか、それともどこかの国のどこかの研究所でイカれた実験をしていて、そこからウイルスが散ったのではないかとか色々な噂はあるけれど結局原因は不明。ウイルスは、人間、動物、虫など無差別に感染する。基本、呼吸からの感染ルートと見られ感染後数分で死亡、その後アンデッドやキメラ、蟲に変貌。感染した奴らを総称として、「アウトサイダー」って勝手に呼んでる。アウトサイダーはウイルスが体を支配してるからかわからないけれど植物がある場所には踏み込めないらしい。100年前の日本なら恐らくウイルスが入れる場所なんてほとんどなかったと思うけれど、10年前なら日本の75%が都市、残り25%が森林だったからね。今では、25%のエリアで植物に囲われたエリアで逃げ延びた人達は発展させ、今ではこのサイバー都市「ファントムアーブ(幻の都市)」が出来た。そして、ウイルスが蔓延る区域を危険区域今はG〜Sの8段階で危険度を振り分けられていて、知里が俺たちと出会ったのはCの区域。俺たちは危険区域にいるアウトサイダーの排除と区域の浄化を仕事にしている掃除屋、「スレイヴ」って言われてる。んで、俺らスレイヴの本部がここ「ブルーロック」スレイヴの活動拠点だね。んで、ここはスレイヴごとに専用の病室がある病棟で、潔の病室に知里はいるの】
話し終えた蜂楽は、喉が渇いたーと言いながら知里の横に置かれた水差しを取りコップに水を注ぐ。知里は蜂楽の説明を聞いた後、今までの経緯とこの世界の現状を整理する。グリートホールという淀みが密集してできた穴に落ちてこのウイルスが支配する世界に来た。そして、現状帰る方法はない。絶対的な状況のはずがなぜだか落ち着いている自分に知里は違和感を持つ。どうしてここまで冷静でいられるのか、脳裏に蜂楽の笑顔と言葉を思い出す。彼の励ましがおそらく自身をこうして冷静にしているのだろう。では、自分はこの世界で何をするべきか、このまま怯えて戸惑うよりも何とかして元の世界に戻る方法を見つける。それが自分がすべきこと。シチューを食べ終え、フーっと一息つく知里の瞳は困惑も怯えもなく、現状を理解し何をすべきかを思案するように動く。そんな彼女に、潔は口を開く。
「とりあえず、篠崎。会わせたい人がいるからついてきてほしい」