「あの、潔くん。会わせたい人って…」
「あー……一応俺らスレイヴの統率している人だから、報告しないとなんだよね…」
けど、ちょっとというかかなりイカれてる人だから多分普通に受け入れてはくれないと思う。
潔の言葉と難しい顔つきに、胸の前で握っていた手に力が入る。長く少し重たい雰囲気の廊下を歩き続けて数分、知里の前を歩いていた潔が立ち止まる。目の前には近未来風な扉がひとつ固く閉ざされていた。
「ここ」
潔が手のひらを扉に翳すと、扉はスライドし部屋の奥へと導く。そこは正面にはモニターがいくつもあり、右には見たことの無い大きさの長方形の箱型の機械が置かれており忙しなく点滅を繰り返す。左にはいくつもの機械工具や書類らしき紙類が乱雑に置かれた棚があった。そして中央には大きくゆったりと回る地球儀のホログラムが存在する。知里はアニメや漫画などでしか見ないような近未来型の部屋に忙しなく目を動かす。
「あの、ここは…」
「やっと来たか。潔世一、蜂楽廻」
声は頭上からだった。上を見上げると勢いよく椅子に座った人物が降ってきて、思わず肩を震わせる。椅子に座る人物は30代らしき、男性で肌は病弱かというほど白く、体は筋肉がほとんどないかのようにやせ細っておりスクエア型のメガネの奥からは不気味なほど大きく真っ黒な目が知里を射抜く。その目元大きく隈を作っているが、瞳からは有無を言わせないほどの威圧感を感じる。
「あの…」
「お前か?危険区域Cにマスクもなく武器も、エゴもなくふらふらとさまよっていたとかいう馬鹿は」
「ば、え?あ、えっと…」
「お前のせいで本来ならあのエリアの浄化は今日で終わるはずだったのが計画が狂った。責任を取ってもらいたいぐらいだ」
「ご、ごめんなさ…」
「責任を取ってもらいたいと言ったが、平和ボケの世界から来たなんにもできないただの小娘に責任を取れる能力どころか謝罪する権限もねぇよ」
突然現れた男の言葉に知里は何も言えなくなりただ呆然と見つめるだけだった。そんな傍ら潔は予想していたというように苦笑いの表情で、反対に蜂楽はなぜだかニコニコとした表情を浮かべていた。
「俺は、絵心甚八。このブルーロックの創設者でありこいつらスレイヴの管理者でもある。大体の話は潔世一から聞いているはずだ。この世界のことも」
「は、はい!その、しばらく帰る方法が見つかるまでここに」
「出ていけ」
「……ぇ」
「お前の帰る方法に時間を割くのなんてこちらにはなんのメリットもない。それどころか俺たちの仕事の邪魔になるデメリットにしかならない。大体の世界のことを聞いたのなら、元の世界に帰る方法は自分で探せ。この都市なら働き口はいくらでもあるし、しばらく暮らすための場所も山ほどある」
「そんな……!」
「なんにもできないただ守られているだけの小娘に食わせる飯も仕事もない。それどころか、自ら生きようと思って強くなろうとする気概もなく強者にただ態度で媚びを売ってただ与えられる恩恵を待つだけの弱者に俺は興味が無い」
頭を殴られる衝撃とはこの事なのだろう。自分のこれまでの経緯を全て見透かしているとでも言うような言葉に何も言えなかった。いや、おそらく絵心は自身の短い時間の中での言動から的確にどういう人物なのかを当て、確信的な所を的確に突いたのだろう。
「え、あ……」
「潔世一らから話を聞いているならいまこの世界は弱肉強食とでも言おう。今現状のこの世界の頂点に立つのは未知のウイルスという存在だ。そしてウイルスによって生まれたアウトサイダー共そして人というピラミッドになっている。こいつらスレイヴは、そこらの都市で未だ現実を受け入れられず平和ボケに過ごしている奴らと違い現実を受け入れてそして目の前の問題、つまりウイルスへと向き合って全力で生き延びようとしている者たちだ。その点、お前はどうだ?異人という肩書きに縋って異世界から来た右も左もわからないここはどこなんだ、こんな化け物がいる世界で自分は生きれない。これは夢だ。と現実逃避し始め、そして強者に助けられれば今度は自分は助かったでは、何をすべきかとか冷静に物事分析しているフリでイキがって強者の脛を齧って自分が帰れる方法だけを探す。ただの他人に迷惑かけているだけの自己中クソ野郎だ………お前は、本当に生き延びたいと思ったことはあるか?」
思い当たる節がいくつもあった。あの時アンデッドに襲われる寸前、自分は夢だと思い現実逃避で生きることを諦めた。そして潔と蜂楽に助けてもらい、「自分はここにお世話になりながら何をすべきか」という前提条件をつけて物事を考えていた。これではダメなのだ。自分は本当に生き延びたいと思ったことはあったのか、知里の中でぐるぐると回転する疑問。唐突な確信に頭は追いつくも理解が追いつかない。
「生き延びたい、それは人間の生存本能だ。赤ん坊の頃から染み付いた人間の習性として組み込まれている。では、何故死のうとする人間、生きる行為を諦める人間が現れるか、そんなの現実の残酷さに打ちひしがれてもう無理だと嘆くだけしかできない弱者の最後の言い訳としての行為だ」
ああ、でも
「スレイヴはそんな弱者にはならないと這い上がろうとする、強者になろうとする奴ら…つまり、エゴイストだ」
気持ち悪い
「お前にはその覚悟がない。そう思ったが…」
この時、知里の中の何かが訴えてくる。それは小さな違和感だ。その違和感は、知里の中で暴れ大きくなろうとする。だが、暴れる何かに知里は気持ち悪差を覚えた。自分は、本当に生き延びたいと思った、いや思っていないその言葉未だ頭の中を巡っているのだ。何も言わなず俯く知里をただじっと見つめる絵心に潔と蜂楽は、首を傾げる。それどころか知里の不穏な様子に潔は先程からそわそわとしていた。
「…………潔世一、蜂楽廻。任務だ」
「え、あ、はい!」「ほーい」
「危険区域Gのエリアのあるキメラの討伐、今回はそれだけでいい」
「あれ?随分と簡単な任務なことGなんてほとんど黒霧もないようなエリアじゃん」
「ああ…それはな…そこにいる小娘も連れて行け」
絵心の発言に潔は思わず、はぁ!?と叫ぶ。潔の隣にいる蜂楽も目を見開き、うわおと零す。
「拒否権は無い。行け」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!