誰かに向けたとは思えない文章に思わず苦笑いをした。
それでもピースが全てハマる様な感覚で頬には涙が流れていた。
つまるところこの手紙の君は俺で、
さとみくんとは俺のことで
あの日ここへ来た目的は俺に思い出して貰うことで
俺が懐かしがったのも全て俺の過去の記憶だから。
莉犬が誰かと重なっていた。けれどそもそもそんな誰かは存在してなくて、全て莉犬だったという事だ。
過去の莉犬と今の莉犬が重なっていただけ。
けれどじゃあ莉犬は何処に行ってしまったのだろうか。
こんな手紙を残して勝手にどこかへ消えていった。
いや、、今まで俺がそれを莉犬にしていたのか。
強く握りしめシワのついたその手紙をポケットへと入れた。
海を見つめる。
暖かい風が吹いている。
春の風だ。
俺は空を見た。あの日俺をここに連れてきた君が空を見上げた時一体何を見ていたのだろうか。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「席につけー。HR始めるぞ」
学校の始まるを告げるチャイムの音に俺は欠伸をした。
なんだか長い間旅をしていた気分だ。
きっとこれからも俺は莉犬のことを忘れないのだろう。
1年半と数ヶ月もかかった壮大な答え合わせ。
結局莉犬は何も教えてくれなかったな。
今はまだと言いつつなにも。
「今日は転校生を紹介するぞ。病気がちでずっと入院していたんだ。みんな助けてやるように」
「ほら入ってこい」
教室の扉が開かれ入ってきた人に目を見開いた。
「初めましてよろしくお願いします」
髪色も目の色も名前も違うけれどそこに居るのは確かに莉犬であると俺の心が言っている。
「じゃあ席はこの列の1番後ろに座ってくれ。」
担任が指さした席を確認して
席へと向かってくる。
「初めましてよろしくお願いします」
隣の席の俺へと控えめに挨拶をするそいつ。
「あぁよろしくな」
「えっと名前、、」
「さとみでいいよ」
「!、、よろしくねさとみくん」
その瞳は揺れていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
莉犬は莉犬である時のほとんどを覚えていなかった。
断片的な記憶だけが残っていたようだ。
あの手紙を書いた辺りから今の身体の中で目覚めることが何度かあったらしい。
莉犬でありながら別の誰かでもあったみたいだった。
てっきり覚えてないものと思っていたから間違えて莉犬と呼んでしまった時泣き出した莉犬にさすがに焦った。
莉犬は学校の屋上で1人
その大きな瞳にこの小さなこの世界を写して笑った。
君の世界に俺は一体どう写っているのだろうか。
彼はもう莉犬では無い。
以前莉犬は言った。記憶を持ったまま生まれ変わってしまったらそれはきっと地獄も同義だと。
断片的な記憶を持ったまま別の人として生きる莉犬は今幸せなのだろうか。
「あれさとみくん!!」
彼は笑顔で笑っている。
それは今まで見た中で1番の笑顔にみえる。
「莉犬屋上は立ち入り禁止だろ?」
「俺にはスペアキーがあるからね」
春の風が吹いている。
桜の花弁が舞い上がる。
君は今ここにいる。俺も今ここにいる。
愛する誰かとの別れはきっとどれだけ経っても辛いことだから。
次の約束をしよう。
遠い未来の、来世の約束を。
コメント
5件
ブクマ&フォロー失礼しますm(_ _)m
ほんとにほんとに素敵すぎました…話の内容もそうだし、りあさんの1つ1つの言葉が好きすぎました😿 最終回お疲れ様でした〜!! めちゃくちゃ最高でした✊🏻❤️🔥
りあさん!最後までほんとに素敵で最高なお話でしたー!!輪廻転生ってファンタジーで凄いもの、憧れもあるイメージだったけど、よくよく考えてみれば前世の記憶のまま全く違う人になって生きるのは辛いですね…でも今回の赤くんは桃くんに思い出してもらえて幸せそうで良かったです💗❤️りあさんの選ぶ言葉1つ1つが本当に素敵でした🫶🏻