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「アリエッタったら何着せても似合うから、止まらなくなっちゃうね~」
「うー」(結局ほとんど着せられた~疲れた……)
アリエッタが考えた服は、ほとんどがアリエッタサイズでも作られ、無慈悲にもミューゼ達に着せ替えられていった。今回は店のように怖い目をしたお姉さん達に囲まれずに、大丈夫と撫でながらスローペースで着せ替えていった為、アリエッタの心が壊れる事は無かった。
「ふぅ……」
「はぁ……」
フラウリージェの2人はというと、満足した顔でボーっとしている。服を大量に着て貰えた事と、新しい技術の入手で、もうお腹いっぱいなのだ。
しかしまだ全てが終わったわけではない。
「で、この服畳んで持ち帰りやすいようにすればいいし?」
「あ、わたしがやりますので……」
「数多いし、手伝うし。その間にあの絵出すし。パフィ」
「分かったのよ」
「まさかっ! アレを!?」
満足しきっていて、その事をすっかり忘れていたノエラ。慌てて姿勢を正し、興奮した面持ちでパフィが持ち上げた箱を見つめる。
「ハッハッハッハッ」
「息荒いのよ! ヴォルみたいに盛ってんじゃないのよ!」
(のえら、犬のモノマネでもしてるのかな?)
目の前に箱を置かれ、もう我慢出来ない様子。
中の紙を丁寧に外に出し、最初に見ていたにも関わらず、最初からじっくり鑑賞し始めるのだった。
「しゅごい……」
口から出てくる感想は、短いものばかり。語彙力を完全に失っている。
これは長くなるなと思った一同は、服を畳むのを手伝ったり、アリエッタやピアーニャにおやつをあげたりして暇を潰しにかかった。
「いや、わちまでまきこむな……」
しばらくの間、それはそれは静かなひと時だった。
今回は新しい服と認識して見ているので、ノエラも叫んだりはしなかった。しかし、
「キャーーーーー!!」
「うにゃぅ!?」(びっくりした!)
「一体どうしたんですか……」
突然の叫びによって、平穏なひと時は終了した。声の主はもちろんノエラ。本日最大音量である。
着せ替えの前にもいくつか見ていたが、それらを超える絵が描かれている事は、その反応だけで窺う事が出来てしまう。
「ああああああああありえったちゃん!! やっぱり貴女が神なのねっ!」
(……いやまぁそうなんだが)
(意味は違うけど、その通りだから困るわねぇ……)
ピアーニャとネフテリアが困っている。
続いてもう1枚紙をめくった。
「おおおおおおお!!」
まるで眩しすぎるものを見るかのように仰け反った。
「すっごいオーバーリアクションだし」
「どんな絵なのかしら、どれどれー?」
気になったネフテリアが覗き、釣られてルイルイとリリも一緒になって覗き込む。
「こっこれはっ!」
「まさかそんなっ!!」
一緒になって同じ反応を示した。その後ネフテリアが紙の束をひったくり、内容を一通り確認。その中の一部を別に分け、ノエラに見せた。
「ノエラさん。これらの納品はいつになるかしら? もちろん全員分」
「形だけなら3日あれば……完璧に仕上げるならば6日、いえ、先程の技の研究もするので10日ですね」
他にも服をいくつか選びながら、予定を決めていく。
「……なんか既に決定事項になってるね」
「元々予定してたのよ。これで決行日が決まりそうなのよ」
(うぅ……食いついた。アレよりはソフトにしたんだ、もう覚悟を決めるしかないっ)
フラウリージェで見た物を思い出し、祈り始めるアリエッタ。
アレを着るくらいならば自分で……と思って描いた絵は、あっさりと採用される雰囲気になっているのが分かり、少しだけ安心している。
「それじゃ、20日後にみんなでヨークスフィルンへ行きましょう。ピアーニャとロンデルも休みの予定にしておいてね」
「わちもか……」
当然のように頭数に入れられたピアーニャは、がっくりと項垂れた。
「……ついにヨークスフィルンか。いつかは行くだろうと思っていたが、案外早かったな」
「………………」
数日後のとある一室。
椅子に座った1人の男が、闇の中で口元を歪ませながらその報告を聞いていた。
傍にいる2人の人影が考える素振りを見せ、男に問いかける。
「やはり?」
「ああ、場所が場所だ、行くしかあるまい」
「しかし……」
男とは違い、控えている者はそこまで乗り気ではない様子。男の事が心配であるかのように反論しようとし、言葉を切って少し俯いた。
その様子を見て、少し済まなそうに小さく息を吐き、静かにその固い意思を言葉にする。
「男にはな、やらねばならぬ時もあるということだ。どのような運命が待っていようともな」
「はい……」
「お前達も準備しておけ。ある程度の自由は約束する」
2人の人影は礼をし、部屋を出て行った。
ドアが閉まり、男は1人、笑い始める。
「くくく……待っているがいい。お前達の事は決して逃がさんぞ」
そう叫ぶと男は立ち上がり、2人の後を追うように部屋から出て行った。
「ぇっくちょい!」
「ぴあーにゃ、よしよし」(クシャミかわいいな!)
ところ変わってリージョンシーカーの一室。
数日後に迫ったお出かけの為に完成した服を試着し終わり、全員でのんびりとくつろいでいた。
日程が完全に決まり、手続きを終わらせたロンデルが部屋に入ってきて、大事な事を共有する。
「我々9人は同じ宿に泊まりますよ。フラウリージェの方々は別グループになります。合流して一緒に楽しむとよいでしょう。あとは他のシーカー達も同行しますので、もしはぐれたりしたら頼ってくださいね」
「はーい」
「? はーい」
ロンデルの説明にミューゼが返事し、とりあえずアリエッタが真似をする。そして撫でられる。
部屋にいるのはアリエッタ達4人、ネフテリアとオスルェンシス、そしてピアーニャとロンデルとリリの合計9人。服を持参していたノエラは、最終調整の為に急いで帰ったのだった。
「そういえば最初は騒いでる人達がいっぱいいたのよ」
「ヨークスフィルンに行くにしても、全員で行くわけにはまいりませんからね。選ばれなかった人達が抗議しにきました」
「えぇ……」
「うるさいから4回に分けて交代って事にしたのよねー」
ネフテリアがやれやれといった感じで、首を振った。
ニーニル支部とはいえ、シーカーの数は少なくない。王女の提案で休暇となるパフィ達だが、他のシーカーまで全員一緒に休みにするわけにはいかないのである。
そこでメインメンバー以外は分割での同行を許可する事にした。それにより、シーカー達は大きな建物が震える程の雄たけびを上げ、喜んだのだった。
「たまにはこういうのも悪くないでしょう。時には命がけですからね。ご褒美は必要です」
「ヨークスフィルンは安くないからねー。まぁわたくしとピアーニャには関係ないけど」
「さすが王女様なのよ」
「えっへん、もっと褒めてもいいのよー」
調子に乗るネフテリアの元へ、ミューゼがアリエッタを抱えて近づいた。そして、ネフテリアの頭を撫でさせた。
「てりあ、よしよし」
「ぐふっ……なにこれ幸せ……」
アリエッタはネフテリアをやっつけた。
何故かフェルトーレンがネフテリアに飛び乗り、得意気にポーズを取り始めた。
「あとは何か持っていく物あるし?」
「服に関しては追加分をフラウリージェが持ってくるでしょう。基本的な荷物を持っていくといいでしょうね」
「分かったし! 他にも欲しいのあるから、これから買いに行くし!」
「わかったー。じゃあ商店街にいこっか」
必要な物を買いに行く為、ミューゼ達は意気揚々と部屋を出て行った。
後に残るは静かに過ごす大人達と、崩れ落ちたまま満ち足りた顔で気持ち悪く笑うネフテリア。
「……リリまでいってしまったな。まあいいか」
「この王女は自分が持って帰りますね」
「ええ、お願いします。フェルトーレン、王女から降りなさい」
相変わらず王女の扱いは雑だった。
そして数日後、暗く青い空と氷の柱を眺めながら、男は仄暗い部屋の中でグラスを傾けていた。
「ついに明日か……楽しみだ」
グラスに入ったワインには、巨大な青い円が映っている。それは空に浮かぶ夜の太陽だった。
男は太陽に向けてグラスを掲げ、その名を呼んだ。
「待っているぞ、ピアーニャ!」