テラーノベル
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※チャットノベルてのも初挑戦してみた。正解がわからないけど見てもらえると嬉しい。
時間の感覚が、曖昧になっていく。
夕焼けはとうに沈んで、空は濃い群青に変わっていた。
屋上の四隅に取りつけられた照明は落ちたまま、
夜の影が、ゆっくりと校舎の上に沈殿していく。
遥は、ずっと同じ姿勢で立ち尽くしていた。
時折、風に揺れる自分の髪の感覚だけが、
「まだここにいるんだ」と教えてくれていた。
喉が渇いていた。
指先は冷たく、脚はじんわりと痺れていた。
でも、それをどうにかしようという気にはならなかった。
──ほんとうは、
ただ誰かに、「間違ってないよ」って言ってほしかったのかもしれない。
けど、それを望んでしまう自分が、一番、気持ち悪かった。
間違ってないはずがない。
俺は──蓮司が言ったことを、全部、否定しきれなかった。
守りたかった。
でも、それと同じくらい、
あいつが自分のものじゃなくなるのが、怖かった。
それは、
“誰かを思う”っていう気持ちとは、まるで違う場所にあるものだった。
まるで、
支配。
独占。
欲望。
──気づいていたのに。
ずっと、見ないふりしてた。
遥は顔を上げた。
夜空には星が少しだけ浮かんでいる。
でも、その光は頼りなく、どこか遠かった。
冷たい風が吹くたび、制服の襟の隙間から寒さが染みてくる。
体温を奪われているのは、きっと体じゃなかった。
もっと、深いところだ。
蓮司の顔が、何度も脳裏に浮かぶ。
日下部の顔も、同じくらい。
どちらの表情も思い出せて、
どちらの言葉も忘れられなくて、
そのくせ、どちらにも何も返せなかった自分だけが、
この場所に取り残されていた。
──俺が、いちばん、
どうしようもなく汚れてる。
ぽつり、とそんな言葉が心の中に落ちた。
けれど、不思議と涙は出なかった。
その代わりに、胸の奥が、何か硬いものでぎゅうっと締め付けられるように痛んだ。
声に出せば、少しは楽になるのかもしれない。
でも──
声を出すことすら、怖かった。
音にした瞬間、
自分の中の何かが、本当に壊れてしまいそうで。
だから、遥は黙っていた。
夜に、風に、校舎の気配に、
ただ身をさらしたまま、
そこにいた。
遠くで、どこかの教室の灯りが一つだけ消える音がした。
世界が、静かに、夜を受け入れていく音だった。
──俺も、
いつか、
このまま消えてくれたらいいのに。
そんなことを思いながら、
遥はまた、黙って夜に沈んでいった。