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街灯が、ぽつぽつと夜道を照らしていた。遥の足音だけが、アスファルトに静かに響いている。


屋上から降りてきたのは、いつだったか思い出せない。

気づけば下校時刻はとうに過ぎていて、校舎の窓にはもう明かりはなかった。


制服のまま、カバンも持たずに歩いていた。

肩にかかる冷気が、今夜の孤独を教えてくれる。


家には帰りたくなかった。

でも、行く場所もなかった。

ただ、歩いているしかなかった。


その角を曲がったとき──ふと、前方に人影があった。


「……遥」


その声に、遥はわずかに肩を震わせた。

見慣れた制服、見慣れた顔。

日下部が、街灯の下で立っていた。


「……何してんの、こんな時間に」


遥は答えなかった。

けれど、日下部もそれ以上、問い詰めなかった。


少しの間、沈黙が流れる。


「帰るとこ?」


「……わかんねぇ」


それだけ言って、遥は視線を逸らした。

日下部は小さく息をついて、少しだけ距離を詰める。


「……カバン、置いてきた?」


「ああ。……べつに、いいよ。いらねぇし」


その言い方が、どこか無理に軽さを装っていて、

日下部は一瞬だけ、手を伸ばしかけたが──やめた。


そうじゃない。


そういうときに、簡単に触れちゃいけないってわかってた。


「……玲央菜に、怒られた」


遥がわずかに目を見開いた。

けれど、すぐに眉をひそめ、口を噤んだ。


日下部はそれ以上、何も言わない。

“だから探してた”なんて、言う気はなかった。


あいつに、遥がどう思われてるか。

それを伝えることで、余計な痛みを与える気はなかった。


ただ──


「帰るなら、送る。……それだけ」


言葉は短く、抑えられていた。

それが、遥には逆にまっすぐに響いた。


「……別に、おまえのせいじゃねぇよ」


それが精一杯だった。


日下部は、うなずきもしなかった。

けれどその表情には、かすかに何かが揺れていた。


二人は並んで歩き出す。

会話はなかった。

沈黙があった。

でも、それを遥は「耐えられる沈黙」だと思った。


──守るとか、守られるとか、

そんなこと、わからなくても。


今はただ、この歩幅で一緒に帰れることが、

まだ、自分を保っていられる理由だった。

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