テラーノベル
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「…とにかく、俺にはこのやり方が1番合うてんの!」
あぁもう、何でこの人はこうも解らんのかな。そう表すようにがしがしと自分の頭を乱暴に掻き、下ろした手が腿に当たる。俺は俺なりに配慮しながらやってんねん。せやから、
「店にもレンさんにも迷惑かけへんようにするから…もう俺のことはほっといてや…。」
俺がやり出したことには、俺自身が責任持たんと。それぐらいは解っとる。
踵を返した俺の腕を掴んできた手。振り払おうにも、その手の力は尚も引き留めるように力強くて。
「っんやねん…ええ加減にせえよ?!」
「お前さ、男女問わず恋人できたことないだろ?」
威嚇するように声を荒らげても、ボレーの如く不意打ちで返してくるレンさんに言葉に、つい声を詰まらせる。
「…それどころか、本気で誰かを好きになったことも、無いんじゃない?」
「、…何の関係があんねん。じゃあ何?抱いてくれんの?『好き』を教えてくれんの?…ノンケのアンタには絶対無理やろ。」
あくまで『身内』として守られても、結局俺には何もメリットはなくて。ウリをすることでしか誰かに俺を求められることはなくて。
彼から放たれた言葉に、自分の存在意義の薄さを再確認させられ、思わず自嘲した。やのにこの人は、
「そう求めるのなら、お前が金出さなくちゃいけなくなるね。」
「はぁ?何でやの?」
「知ってるでしょ?俺、一応『億』稼いでる商品だし。」
「いや自分で言うのダルいて…。」
俺とは真反対に自分の存在に絶対的な自信しか持っていないのが、羨ましく思ってしまう。
求める側と求められる側。同じ身の切り売りでも、やり方の差でこんなにのも違うのかと突きつけられてしまった。
…でも、このままでは悔しい。俺は更に噛みつくように言った。
「別に俺が求めてんのは『レンさん』っちゅう商品ちゃうから!こっちが払う義理もないねん。」
それでも、返された言葉は耳を疑う意外なもので。
「…へぇ?じゃあ『レン』は抜きにして、素の俺が試すってのはあり?」
「…は?」
訳も分からないまま呆然としていると、腕を離して視界に入ってきた彼の右手。企みを含んだ笑みを浮かべながら人差し指だけ立て、その後も何も言わないでいる。
「…何なん、その指。」
その指が、ゆっくりと俺の方へと倒される。
「…俺が…何?」
さされた指がまた立てられる。そこで初めてこれは交渉だと察した俺は、少々困惑しながら恐る恐る聞いてみた。
「………まさか1万で…とか、言わへんよな。」
「勿論。一先ずお試しで確定1本。」
「いっぽん?え、飲みもん?」
あの男には金あげといて、さすがにケチ過ぎん?そんな下に見られてんの俺?そう思った矢先に提示されたのは、
「ううん、100万。」
「ひゃ…くぅっ?!」
この人何を言いだしてん?え、ひゃく、まん?何やその額。メディアくらいでしか聞いたこと無いで?余りにも予想外な額に狼狽える俺に、彼は愉快そうに口端を上げて理由を告げる。
「前金制なんでしょ?だから100は確実に渡す…けど、今は手元に無いから後での手渡しになる。お前に興味出てきたから、投資みたいなもんだよ。まぁ、今後はお前の頑張り次第だけど。」
「え、えっ…?」
理解が追いつかない俺を放っておいて、彼は饒舌に更に続けた。
「お前はお前でさ、これくらいあったら学費の残り全部払えるでしょ?それで目標達成するわけじゃん。だからもう『小銭』を必死に掻き集める程の執着や頑張りは薄れる。」
「…今小銭言うた?」
何でこの人はいっつも余計な言い方すんねん。カチンときて眉を顰めていると、何がおもろいんか知らんけど彼に鼻で笑われた。
「…このまま働いていれば生活も安定するし、そのうち自己投資を考えられるようになるよ。更に余裕が出来れば健全に良い出逢いができるんじゃない?」
(問題はそこちゃうんよな…。)
「…俺に金出すってどういうことか、解ってんの…?」
俺の問いかけに《うーん、》と鼻先に人差し指をあてて虚空を見上げるレンさんは、口端を吊り上げて1回だけ頷く。
「マジのノンケだから、さすがに男相手は初めてだよ?でも知らない世界を知れる機会があるなら、知っといて損はなさそうと思って。そりゃ突っ込まれるのは勘弁だけど…お前、ネコだろ?」
「、まあ…そうやけど。」
こうもはっきりと性的役割を聞かれてしまうと、彼の提案が冗談ではなく本気なのだということが理解できる。《じゃ、決まりだな。》と、レンさんはスマホを取り出し、電話をかけ出した。
「リョウさんお疲れ様です。あの店の周年行ってから出勤するけど、途中でアイツに会ってさ。…うん、ソイツ。暇そうだったからそのまま働かせようかと思って。」
「え゛。」
「あ、いい?じゃあ周年連れてって一緒に出勤します。じゃ、後で。」
リョウさんへの連絡を済ませると、何故か急遽出勤が決定して固まる俺の耳元へと唇を寄せられ、彼はその甘く低い声で、恐らく姫にもやっているように囁く。
「──仕事終わったら、俺の家で。ね?」
ぞく、と背筋が震える。その理由は勿論、俺しか知らない。
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