テラーノベル
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街灯がないわけじゃないのに、ひどく暗く感じる住宅街。遠くから聞こえる電車の音が仄暗い空にこだまして消える。
並んで歩く、マンションまでの道。日中から降り続いていた雨が上がって、あたりには幾分涼しい風が吹いていた。
月極駐車場の前を通りかかった時に、野良猫の独特な鳴き声がした。まるで赤ん坊が泣いているような…。
「あー、盛りついちゃってるね」
かわいそう。歩みを止めて、佐久間が言った。
「かわいそうなの? なんで?」
阿部も立ち止まって聞き返す。
「なんか辛そうじゃん」
「オス猫にアピールするためのものでしょ?」
「そうだけど。いいオスが見つからなかったら、ストレスだし…」
そう言って、まるで自分のことのように悲しそうな顔をする佐久間は、この世の全ての猫たちを救えたら良いと思っているのかもしれなかった。
二人はしばらくそこで猫の姿を探してみたけど、鳴き声が聞こえるだけで姿は見えなかった。 諦めてまた帰路に戻る。
「にゃあにゃあ」
「何だよそれ」
阿部のした猫の鳴き真似に、佐久間は訝しそうな視線を投げた。それというのも、阿部からはまったく似せる気を感じないのだ。
こちらを見た佐久間に対して、阿部は小さく首を傾げた。
「佐久間に、アピールしてるの」
「…ふはっ、可愛いじゃん」
佐久間が嬉しそうに笑った。阿部もつられて笑う。
「ねえ阿部ちゃん、手貸して」
「それは恥ずかしいからやだぁ」
「誰もいないし、暗いから見えないよ」
「んー…」
それぞれに右手と左手を伸ばして、手を繋いだ。 身長に比べると、二人の手の大きさはあまり差がなくて、重ねるとしっくりと馴染んだ。それからぎゅっと 指を絡めて、恋人繋ぎにする。
「おい、ちゃんと歩けよ」
ステップを踏んでいるのか、ふらついているだけなのか、ふざける佐久間の遠心力に引っ張られて、阿部もうっかり躓きそうになる。
「にゃはは」
わざとらしく、佐久間が笑った。唇を尖らせて佐久間を睨んでいた阿部もすぐに毒気が抜かれて、笑うしかなかった。
「佐久間のこと、猫みたいに可愛がってあげるよ」
「阿部ちゃんじゃなくて、俺が猫なの?」
「佐久間が猫じゃん」
「阿部ちゃんも猫だから、俺だって可愛がりたい」
何の意味も、生産性もない押し問答。
二人きりの部屋で、手を繋いでキスをしながら、本当に二人で猫になって、ただ気の向くままに追いかけ合って転がりまわって、疲れたら丸くなって眠って、そんな日々が過ごせたらとても幸せだろうなと思った。
コメント
10件
かわいー
🩷くん、自分は案外犬っぽくて💚の方が猫っぽいっていつか話してましたが、それでもやっぱり🩷は猫っぽいよなぁって思いながら見てしまいます🤭 最後の一文に💚🩷💚の良さというか可愛さが凝縮されていてキュンてしました🥺
かわいいだけーーーー💚🩷💚