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アパートの屋根の上に座っているミノリ(吸血鬼)とナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十になってしまった主人公)。
彼は雲の上にいたシアン(擬人化したメスドラゴン)に自分の心臓が蛇神《じゃしん》のものであることを知られてしまった。
それを知った彼女は彼に対して恐怖を抱《いだ》くと同時に威嚇《いかく》した。
彼は前にもこんなことがあったなーと思いながら、アパートの屋根の上にあがったのであった。
「それで? |シアン《あいつ》になんて言われたの?」
「あー、まあ、その……俺の心臓が俺のものじゃないってことがバレてだな」
「なるほどね。でも、ナオトが普通の人間じゃないってことくらい知ってたはずよね? あいつはあんたの強さに惚れたんだから」
なんとなく想像はできる。
自分の憧れの存在に実際会った時、自分が想像していたような存在ではなかったら少し悲しいよな。
でも、俺はこの心臓がないと生きていけない。
だから、手放すことはできない。
「らしいな。けど、だからって、あんなに警戒されるとさすがに傷つくなー」
「今までが特殊だったのよ。みんなそこそこ好感度が高かったから、すんなり仲良くなれた。そうでしょ?」
それはたしかにそうだな。
けど、やっぱりシアンと仲良くなりたいな。
これからしばらくの間、一緒に旅をするんだから。
「まあ、そうだな。けど、俺はこのままの状態で旅を続けたくないんだよ」
「あんたなら、そう言うと思ってたわ。まったく、あんたって本当にバカね、いい意味で」
今のは褒《ほ》められたのか? それとも貶《けな》されたのか?
うーん、いい意味でバカか。
まあ、褒め言葉として受け取っておこう。
*
「シアン。ナオ兄は化け物じゃないよ」
「違う! あれは化け物!! あんなのもう人じゃない!!」
シオリ(白髪ロングの獣人《ネコ》)はシアン(擬人化したメスドラゴン)の顔をじーっと見つめている。
「どうして分からないの? ナオ兄の心臓は他の人間と少し違うけど、それは私たちにだって言えることなんだよ?」
「私たちは環境に適応するために進化した。けど、あれは邪悪そのものだった。いずれ全てを呪いかねない。だから!」
シオリは彼女の頭にチョップをした。
「い、痛い! い、いきなり攻撃するな!」
「ナオ兄を悪く言うのはやめて。ナオ兄はあなたや私たちを助けるためなら自分を犠牲にしてでも駆けつけるお人好しで、それを成し遂げるために自分を追い込んでる。心臓が私たちと少し違うからって、その事実が消えるわけじゃない。言ってる意味、分かる?」
シアンは彼が自分のところにやってくるまでの間、決してアパートに戻ろうとしなかったことを思い出した。
それは手の届く範囲にいる、つまり助けられそうな存在を見捨てるわけにはいかないという思いがないとなし得ないことだ。
「私は……愚《おろ》かだ。私が見ていたのはナオトの強さだけ。それでナオトの全てを知ったような気でいた。けど、それは違う」
「そうだね……。シアン、ナオ兄はアパートの屋根の上にいるよ。じゃあ、頑張ってね」
シアンは彼女の言葉の意味を理解すると、部屋から飛び出した。
仲直りできるといいね。