シアン(擬人化したメスドラゴン)は巨大な亀型モンスターの甲羅と合体しているアパートの二階にある一室から飛び出すと、アパートの屋根まで飛んだ。
ジャンプしたわけではなく、背中に生えている二枚の翼を使って飛翔したのである。
「ナオト!」
「え? おー、シアンか。何か用……」
ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)が最後まで言い終わる前に彼女は彼に抱きついた。
「ごめんなさい! 私、ナオトに酷《ひど》いこと言った! ナオトは化け物なんかじゃない! だから!」
彼は彼女をギュッと抱きしめる。
「俺は大丈夫だ。それより、こっちこそごめんな。内緒にしてて」
「ううん、私の方が悪い! 本当はあんなこと言うつもりなんてなかった。あの時の私はどうかしてた!」
「それも知ってるよ。あと、それは心から恐ろしいものを見た時の反応だから、別におかしくないんだぞ?」
「でも! ……でも!」
そんな感じで謝罪の言葉がしばらく飛び交っていた。それを間近で見ていたミノリ(吸血鬼)はそろそろ終わらないかなーと思っていた。
「まあ、その、なんだ。俺はお前のことを見捨てたりしないから、お前もできればそうしてくれ」
「うん、分かった。私はナオトを守る。これはその証《あかし》」
シアンはナオトの頬にキスをした。
それを見ていたミノリ(吸血鬼)は二人の間に割って入った。
「あ、あんた! いきなり何してんの!? 新入りのくせに!!」
「今のは、ただの儀式。本当は一ヶ月くらいかけてやるもの。今回はそれを簡略化した。ナオトは私が守る」
そんなの分かってるわよ。
けど、なんというか、こう……。
「ミノリ、お前の言いたいことは分かるけど、それをシアンに言っても多分、理解できないぞ」
「あああ、あんたに何が分かるのよ! ナオトのバカ!」
彼はスッと立ち上がると、彼女を優しく抱き寄せた。
「ちょ、ちょっと! いきなり何すんのよ! 離しなさいよ!」
「それは無理だ」
「意味分かんないわよ! ちゃんと説明しなさいよ!」
彼はミノリをギュッと抱きしめる。
「ミノリ。お前はいつも俺やみんなのことを考えてくれてるよな。それはものすごく嬉しいんだけどよ、お前自身の感情を縛りつけるのはやめてほしいんだ。少しずつでいいから素直になってほしいんだ」
「……あんたって、本当にバカね。あたし、すぐに嫉妬しちゃう面倒なやつなのよ? それなのに、こんなに優しくされたら……離れられなくなっちゃうじゃない」
シアンはミノリのとなりに立つと、彼女の頬にキスをした。
「ちょ、ちょっと! いきなり何すんのよ!」
「あなたのことも私が守る。今のはその証《あかし》。ただそれだけ」
「そ、そうなの? えっと、あ、ありがとう」
「どういたしまして。あっ、ナオトにもしてあげるね」
「え? いや、俺はさっきやってもらったから別にいいぞ」
「ダメ。ナオトにする回数が他のみんなより少ないのはおかしい。だから、やる。やらせて。やらせろ」
「えっと、なんか命令口調になってるんだけど」
「気のせい」
「いや、でも」
「気のせい……」
そんな感じで三人はしばらくアパートの屋根の上で騒いでいた。
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