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HAPPYBIRTHDAY . 2026
茈「 はぁ~…っ、 」
ひとつ、長めに息を吐いてみると、こんな季節にもそぐわない寒さのお陰で、白いもやが目の前に形成される。
二月だと言うのに寒さは酷だ。もう少し収まっていてほしかった。
せっかくの誕生日なのに、ほかのメンバーはみんな何かしら用事があるとかで、外に出向いてくれるやつはいなかった。別に寂しいとかじゃないからな?
『 茈!!誕生日おめでとう!! 』
茈「 ぉ、また来た… 」
もう名前も思い出せない旧友。何気にこいつとは長く連絡を取っている気がする。
今日は自分へのご褒美で、お高めのお店に行ってきたところだ。普段よりドレスコードも気にしてお洒落して行ったけど、どこか楽しいとは思い切れなかった。
久しぶりにひとりだからだろうか。周りの嫌な静寂が鼓膜への違和感を作り出す。
俺やメンバーにとって少し特別な今日という日も、そこら辺にいる同じ人間にとってはなんでもない平日のひとつだったりする。
…そうだ、今日は配信もあるんだ。しょぼくれた気分でいるべきではない。突然、それでも忽然とそう思っただけ。でもまぁ、配信において気持ち作りは大事だしいいだろう。
メンバーに会えなくて寂しい、なんて柄にもない気持ちは、心の奥底で宝箱に仕舞った。
※ 主は配信を見ないので、違和感等あると思いますが、暖かい目で見てやってください。
茈「 …はいどうも~、 」
茈「 シクフォニ紫担当、illma 茈で~す! 」
『 わこ茈~!! 』
『 わこ茈です!! 』
いつものように配信準備をして、時間になったら声を入れる。
いつもの挨拶で声出しを始めたら、あとはもうなんか雑談しながら時を過ごすだけ。そう、一年に一度の誕生日という記念日を過ごす、それだけ。
雑談したりゲームしたり、本当に普段の配信となんら変わりのない配信をしている。まぁあと違うところとか言ったら、V体の風貌は少し違うけれど。
メンバー呼びたいな~とか思って、でも用事があるってな~とか言い訳したり。
茈「 どうしよ、メンバー呼ぶ?w 」
『 呼んで欲しいです!! 』
『 みんなの絡み見た~い!! 』
茈「 おう、じゃぁ呼んでくる。 」
しかし用事があると言ったのだ、あいつらは。今、手が空いているだろうか。
そう思っていたのだが、メッセージを送れば意外とすぐに既読が付いて返信が来た。返信が来た三人のメンバーの内、来れると言ったのは一人だけ。スベリ役で声の高い、頼れるリーダーのあいつだった。
あいつかぁ、と言いながらも、内心は少し嬉しい気持ちもあったりなかったり。
百『 …はい、!!声入ってる~? 』
茈「 お~、聞こえる聞こえる、 」
百『 おけ、!! 』
今日久しぶりに聞くいつもの声に、少し瞳が潤んでしまって。でも配信だし、ミュートにはしづらい…けどこのままだと、涙が溢れて啜り声でバレてしまう。
安心感で喋る内容が飛んでしまって、急に喋るのをやめたからリスナーさんも心配してる。声を届ける仕事なのに、まだ全然届けられていない。早く喋らないと、早く次の話を持ってこないと。そんなことを考える度に止まらない涙。空気読め、ばか。
続きを喋らなきゃ、百との掛け合いも楽しみにしてくれてたのに、何してるんだろ。
茈「 …ッ”、ごめ、 」
百『 、!茈、泣いてる…? 』
茈「 泣ぃてッ”…、ねぇ”、しっ、 ( 泣 」
『 大丈夫ですか!? 』
『 どうかしましたか、? 』
嬉しい、暖かい…
心配してくれるリスナーの、百の声が暖かくて、心地好くて。そんなことを考えたら、よりいっそう涙は止まってくれなくて。
ごめん、嘘ついてた、ごめん。寂しかった、寂しかったよ。
誕生日なのに体に温もりがなくて、いつもみたいに冷えるばっかりで。隣に誰かが居てくれるだけでよかったのに、その存在があるだけでよかったのに、それがなかったから。
呼んだら来てくれるっていう事実が、泣いたら心配してくれるっていう優しさが、どれもこれも全部が声から、俺の鼓膜から全身に染み渡るように伝わってきて。
あぁ、好きだ。俺ここが好きなんだ。
百『 …家行くからね、待ってて。 』
茈「 ッぅ”…ふ、ぅうっ”、 ( 泣 」
『 百くんかっこいい! 』
『 茈くん泣き止んで、!💦 』
溢れて止まないこの大雨の中で、それでも彼は、俺の傍に来てくれると言った。ただそれが嬉しくて、大雨はさらに勢いを増すばかりで。
配信中なんだ、シャキッとしないといけない。シャキッと、しっかりしないと、いけないのに。ダメだ、俺多分結構弱ってる。
来るなら早く来て、百。俺待ってるから、早く。
百「 いるまぁぁ~っ!! ( 抱着 」
茈「 ぅあ”っ…、いきおいつよい、ばかぁ”…ッ ( 泣 」
百「 ごめんごめん… 」
瑞「 茈く~ん!! 」
茈「 あぇ、…瑞、? 」
赫「 よっす、 」
茈「 、!赫、!! 」
二人は確か、返信だけくれたはず…なんで、?
百以外に来ると思ってなくて何も用意できてないや…どうしよ、二人にもてなすもんないかも、やばい…せっかく来てくれたのに、
百「 なんか俺より赫の方が反応良くね? 」
赫「 そりゃ俺は茈の相方だからな! 」
百「 は!?茈の相方は俺だし!! 」
瑞「 どっちもどっちだよね、茈くん~♪ 」
茈「 ?お、おぅ…? 」
とにかく来てくれたことが嬉しくて、まだ三人にはバレてないけど、じわじわとまた波が迫ってきてる。泣いたら、笑いものにされちゃうのに。
また黙りこくった俺の異変にいち早く気づいた百が、大丈夫?とか、体調悪い?とか聞いてくれるけど、それに答えようと口を開けば、必死に零れないように溜め込んだそれを零してしまいそうで怖かった。
そのことに気づいたのか、はたまた百の直感なのかは分からないが、ひとつ微笑んだ後、あいつはリスナーへの対応に移っていった。
その間は赫瑞がわちゃわちゃしてた。見るのも楽しい。
百「 茈、とりあえず配信は切ったから、 」
百「 今は思う存分泣いて欲しいな。 ( 手広 」
茈「 ッ、ぁ…… 」
赫「 そうだな…お前は甘えるの下手だから。 」
瑞「 今ぐらい、甘えていいんだよ…? 」
茈「 ぅ、ッ”ぐ…、、っ ( 泣 」
手を広げて待ってくれる友達を、メンバーを、裏切るわけにもいかない。
かと言って俺が甘えてしまえば面目丸つぶれ。だけど今ぐらい、今、一瞬だけならきっと、神様も仏様も、許してくれるよね。
広く空いたスペースに駆け足で飛び込んで、その温かさを受け止める。あぁ、俺の好きな、大好きな温度だ。暖かくて、穏やかで、包まれるような優しさ。ひとりぼっちで冷えた心を、温めてくれるこの温度が、欲しかったんだ。
後ろからも二人が抱き締めてくれて、余計に涙が溢れ出てしまった。
茈「 うぁ”、…ッぁ、あ”、 ( 泣 」
赫「 ひとりだったもんな、ごめん。 」
赫「 予定、入んなきゃ良かったのに。 」
瑞「 瑞も…もっとお祝いするべきだった、 」
百「 俺もだよ、茈。 」
百「 お誕生日、おめでとう。 」
百「 生まれてきて、俺達と出会ってくれて…ありがとう。 」
大好きな温度と、鼓膜を震わせる優しい声に包まれながら、俺の意識はだんだんと夢の世界へ堕ちていった。意識の落ちるその瞬間まで、体は暖かく包まれていた。
今日は、人生で最高の誕生日になったと思う。