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ステージに立てば、観客は沸く。スポットライトを浴び、マイクを握れば、俺は確かに生きてるみたいに見える。
……けど。
歌い終わって袖に戻れば、胸ん中には何も残らない。
拍手も歓声も置き去りにして、最後に残るのは孤独と虚無。
楽屋に戻れば女がいる。
名前なんて聞かない。抱いても心は動かない。
熱で誤魔化し、欲で埋めても、すぐ冷めて虚しさがぶり返す。
朝まで酒を浴びるように飲んでもいい。
煙草をいくら吸ってもいい。
けど、醒めた瞬間に襲ってくるのは、やっぱり孤独。
燃えてんのは灰か、それとも俺自身か。
少しずつ削れていく感覚すら、もうどうでもよかった。
――それでも、ステージに立つ。
孤独と虚無を押し隠すために。
女で、酒で、煙で、音で……無理やり埋めてきた。
そうやって誤魔化す日々が、ずっと続くと信じていた。
――あの女に出会うまでは。
「……つぎ、俺らの番だな」
深く吸い込んだ煙を吐き出し、灰皿にタバコを投げ入れる。
舌につけた金属を、わざとカチャリと鳴らした。
若井と涼ちゃんがすでにスタンバイしている。
互いに肩を抱き寄せ、軽くハグを交わす。
「機材ぶっ壊すなよ……もとき」
若井が眉をひそめて笑う。
深い赤に染めた髪が、ステージのライトを浴びて炎みたいに揺れた。
「へいへい」
ニヤリと笑って肩をすくめる。
「がんばろ〜ね!」
涼ちゃんの無邪気な声。
肩まで伸びた金髪のウェーブがスモークの中で光を散らし、きらめいた。
ほんの一瞬だけ、胸が軽くなる。
袖の向こうから、観客のざわめきとスモークの匂いが流れ込んでくる。
ライトが明滅し、名前を叫ぶ声が響く。
足音を合わせてステージへ向かう直前――
俺は振り返り、二人に低く吐き捨てる。
「……おまえら。ぶっ壊してやるぞ」
スポットライトが目を刺す。
マイクを握った瞬間、体の奥底から血が沸き立つ。
「……オイ!暴れる準備できてんだろ!」
吐き捨てるような声に、フロアが一気に爆ぜる。
スモークと熱気、手を突き上げる観客の海。
銀色に光る髪が汗で貼りつき、無意識に舌ピアスをカチリと鳴らす。
――誰にも聞こえない、小さな金属音。
けれど、それは俺にとって戦いの合図だった。
喉を裂くように声を吐き出し、ギターリフに体を委ねる。
前方で若井のギターが鋭く火花を散らし、横で涼ちゃんのキーボードが旋律を重ねる。
背後ではサポートのベースが重低音を刻み、ドラムが怒涛のリズムで全体を突き上げる。
五人分の音が混ざり合い、轟音の塊となってフロアを飲み込んでいった。
「もっとだ……もっと来いッ!」
叫ぶたびに、観客は狂ったように応える。
その瞬間だけは、虚しさも、女の顔も、酒もタバコも、全部どうでもよかった。
音の渦の中で――俺は確かに、生きていた。