テラーノベル
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私は芸能事務所のマネジメントチームで働いている。
だが、正直に言えば、私が抱える俳優・松田が売れない理由は、私ではなく上司のせいだ。
現場の空気を無視した無茶な要求、予算を削り、チャンスを潰す采配。
そのくせ、結果が出なければ全て現場の責任にされる。
私がこの業界で人に心を寄せなくなったのは、こうした上司のせいでもある。
それだけじゃない。
数年前、私が初めて担当した若手俳優は、SNSでの言われなき誹謗中傷に耐え切れず、自ら命を絶った。
警察からの連絡を受けた日の空気は、今でも肌の奥に張り付いている。
「マネージャーなら守れただろ」という記事のコメント欄が、刃のように突き刺さった。
それ以来、私は担当俳優と必要以上に距離を取るようになった。
冷たく見えても、それが私なりの防御だった。
その日も、仕事帰りに松田の撮影現場へ顔を出した。
湿った空気と、スポットライトの熱が混ざったスタジオ。
松田は笑顔で台本を読んでいたが、その目にはどこか諦めがあった。
私の視界がふっと揺れたのは、その直後だった。
耳鳴りと、心臓をわし掴みにされるような圧迫感。
次の瞬間、視界が暗くなり、私は床に崩れ落ちた。
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