どうやら力任せでは遺跡の中に入ることが出来ないようだ。それを知ってか知らずか、サンフィアとフィーサは全くやる気を見せないでいる。
丘陵地には同じような石扉がいくつか点在しているが、このままではどうにも出来ない。こういうのは大抵何らかの仕掛けがありそうなものなのに。
「アック、どうするのだ?」
「そうだな……力だけで解決出来ないとすれば……」
ここは思い切って獣化か竜にでもなるか――そう思っていたら、丘の上でミルシェが手招きをしているのが見える。
「アックさま、こちらに来てくださいませ~! ついでにルティも寄こしてくださると~」
何かを見つけたのかテンションが高い。ルティをついでに呼ぶということも何なのか。
「ルティ! こっちに!!」
「はぇ? でも、石扉はどうすれば~?」
「とりあえずおれの所に来てくれればいいから!」
「はいっっ! 今すぐに~」
ルティだけを呼んだつもりが、当然ながらフィーサたちも一緒について来た。どのみち中に入ることが出来ないと退屈だからだろうけど。
少しして……、丘の上にいるミルシェの所にみんなで集まった。
「勢揃いでようこそ……と言いたいところですけれど、アックさまとルティだけで十分ですわ」
ミルシェの言うとおり、全員で何か出来そうな感じじゃない。石扉の丁度真上になるがここにあるのは一本の太い柱だ。
「アックさま。柱に記されている文字が読めます?」
「……これは、|魔法文字《ルーン》だな。ええと、適した属性で力を注げ……か。拳で殴れそうな石板があるな」
「石の色から判断してもルティの力でしか開かない仕掛けかと」
「真っ赤な石に拳か……」
思わずミルシェと一緒にルティを見る。
「何ですか何ですか? もしかして、アック様とわたしで何かするんですか?」
「ルティ。ここを殴ってみてくれ」
「えぇ!? ここをですか? でもぉ、石扉じゃなくてただの石だし、柱ですよ? 崩れちゃいますよぉ」
「……問題無いわ。多分あなただけの力ではどうにも出来ないはずだから」
「そ、そういうことなら~」
――とはいえ、力だけで殴れば何かの罠が発動する恐れがある。とりあえず、柱の近くに集まってしまっている彼女たちを離しておく。
「シーニャとフィーサ! それとサンフィア! 今すぐここから離れて戦闘に備えろ!」
柱の間近で何かが起きないとも限らない。たとえ何かが起こったとしてもここは彼女たちそれぞれで対応してもらう。
「ウニャ? 敵が来るのだ?」
「ふん、退屈しのぎに丁度いい」
「ええぇ? わらわたちも襲われるなの?」
人化しているフィーサには急なことだが、何とかするはずだ。退屈していたシーニャとサンフィアは、素早い動きで適当な所に散らばった。
「――よし、ルティ。いいぞ!」
ルティだけを残し、おれとミルシェは柱から少し離れて様子を見ることにした。何が起こるのか予想出来ないからだ。
「よぉぉし、よぉぉぉし!! でぇいやぁぁぁぁぁ!!」
周りには何も遮るものが無いということもあって、ルティは息を思いきり吸い込んで拳を目の前の石に叩きつけた。ドォォンっといった鈍い音が周辺に響く。するとその直後、柱を殴ったルティから弱り切った声が聞こえてくる。
「ああぁぁ、アァ、アック様ぁぁ……」
「どうした!? 何かダメージを――」
「石を殴ったら全身に痺れがぁぁぁ~……はへぇぇぇ」
「……デバフを喰らったか。魔物が出るでも無かったようだな」
戦闘に備えていたシーニャたちにはがっかりさせてしまったようだ。
間違った属性を注げばもしかするのかもしれないな。
「やはり間違いないですわね。この柱はそれぞれで対応が決まっていますわ。それに加えて適した属性を注がなければ、石扉は開かない仕組みだと思いますわ」
「――ってことは、後は属性だな。分かりやすいけど」
「ええ。アックさまからルティに火属性を注ぐだけですわね」
「分かった」
ルティの麻痺が治まるのを待ち、おれは彼女に向けて火属性魔法を放った。火属性耐性どころか精霊竜の加護を持つルティには何も変化は無く、首を傾げたままだ。
「あれれ? ほんのり熱いですけど、これは何ですか~?」
「その状態でもう一度その石……柱を殴ってみろ」
「えええぇ!? また麻痺しちゃいますよぉぉぉ?」
「大丈夫だ。いいか、思いきりだぞ!」
「アック様がそういうなら……ふぉぉぉぉ! だあぁぁぁぁぁ!!」
火属性をまとったルティは柱に向かって拳を当てる。
すると柱の真下から何かの音が聞こえてきた。
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