及国ちゃんの話
「…及川さん、ストーカーですか」
岩ちゃんとトビオの一部始終を見ていた俺に、後ろから声が降り掛かった。
「!?国見ちゃん…」
勢いよく振り返ると、俺と同じ部活帰りだろうか、青城の生徒と人目見て分かる格好の国見ちゃんがいた。
「…つらかった、ですか、」
「いや、まぁ…つらいですよね、」
「……っ、お前にそんなこと言われたくな…い、」
泣きそうなのを堪えるのに必死になりながら、バレないように演技をする。
国見ちゃんもつらいのなんて知っている。
「…ですね」
そのあと、小さな震えた声で、俺も今すぐに此処で泣き叫びたい、と後から付けたされた。
「…俺は影山が好きです」
「知ってる。」
「でも、あんたも嫌いじゃないですよ」
そう言って、国見ちゃんは俺の横にしゃがみ込んで、おでこをこつんと合わせた。
「…まぁ、仮にもコイビトですし」
相変わらずまつげながいなぁ、なんて呑気に思いながら目を伏せた彼を見る。
仮のコイビト。
恋人になれないコイビト。
悲しい人間、2人のコイビト。
「なんで岩泉さんに、影山が好きなんて嘘ついたんですか」
そう言いながら国見ちゃんは立ち上がったので、つられて俺も立ち上がる。
俺は岩ちゃんが好き。
「…嫉妬してくれないかなーなんて、馬鹿な俺が淡い期待を持っただけ」
その気持ちは今も変わらない。
だから、もう咲くことのないカタオモイをした悲しい人間。
「…国見ちゃんはすごいね、」
国見ちゃんはトビオが好き。
「別にすごくなんてないです」
「だから、現にあんたとこうなってるんでしょ」
でも、トビオは岩ちゃんが好きだから、もう咲くことのない片思いをした、悲しい人間。
俺と同じ。
「今日、俺ん家来ますか、家族は親戚の家やら出張やらでいないですけど」
「…うん、お邪魔させてもらおうかな」
「及川さん、叶わないって分かってて岩泉さんに嘘ついたんですか」
「…国見ちゃんのばーか」
「……はい」
俺らはふたりで、この寂しさを埋めていく。
END_
コメント
1件
あ〜思った以上に凄いことに、でも国見と及川いい感じなのでは!