テラーノベル
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時は1912年(大正元年の頃)
明治天皇がご崩御あそばされる少し前のこと……。
明治時代が終わり、時代は大正時代へと進む中、不幸のどん底から這い上がり、
周囲の人との縁で幸せを掴む看護婦、温子のお話。
場所は富岡製糸場(群馬県富岡市)の後に埼玉県大宮市などで数か所できた
製糸工場のうちのひとつで繰り広げられた人間模様になります。
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1 ◇出戻った妹は
小桜温子は家庭では主婦として立ち居振る舞い、一方で
は看護婦として毎日製糸工場へと働きに出ていた。
温子は病院勤務を2年務めたあと、製糸工場へと鞍替えした。
製糸工場勤務するためにはよそで2年以上の勤務経験が必要であったためだ。
妹の凛子は20才で結婚して足掛け15年結婚生活を続けた後、
姑の逆鱗に触れ婚家より離縁され実家へと帰されてしまう。
三十路をとうに過ぎた凛子は、当然のように温子夫婦が同居している実家へと
出戻り、仕事もせずにプラプラしていた。
☘ ――――― 凛子が出戻ってきた経緯 ――――――――
明治から昭和に向かう大正時代にかけての時代というのは、日本社会が
近代化と伝統のはざまで揺れていた時期であり、特に女性の立場や家族制度には
まだまだ封建的な考えが色濃く残っていた。
家父長制のもと、嫁は家に「仕える」存在で、何をしても気に入られず、家事や
介護、家のしきたりなどを押し付けられていた。
そのような中、子どもができなかった凛子は、姑から『出来損ない』扱いを
受けておりました。
実は夫に原因がある可能性もあるのだが、当時においては全くと言っていい
ほど嫁の責任とされていたのだ。
それでもまだ夫が、労りと謝罪の言葉を掛けていてくれた間は
何とか我慢ができた。
だが、年を重ねるうち浮気行為まではいっていないものの、夫が外の若い女に
現を抜かしはじめると、途端分かりやすい言動が目につくようになる。
まず、今まで姑と嫁である凛子の間に入り、姑を宥めることで凛子を守っていた
夫の言動が明らかに変わっていったのである。
『嫁の癖に……とか、お前のせいで……』とか、否定的な言葉数が
増えていき……。
実家は姉夫婦が同居しており両親もまだ健在だったため、離縁されても
今ならどうにかなるという計算が凛子の頭の中にはあった。
それで、いつもの他愛ない……いや、他愛ないことないが、姑の嫌がらせが
始まった時に、長年耐えていた凛子が生来持ち合わせていた勝気な面を前面に
押し出し、姑と夫のいる前で「もう限界! ふざけんじゃねぇ」と爆発したので
ある。
最初は目を白黒させていた姑だったが
『気にくわないなら家を出てけ!』
と凛子に三行半を叩きつけたのである。
もう用意周到、数か月前からいつ何時何かあってもとすぐに
出て行けるよう準備していたため『こんな腐った家、こっちから願い下げだね』と
啖呵をきりまとめてあった手荷物を持ち、凛子はそそくさと婚家を後にしたの
だった。
このようになるべくして、凛子は実家に出戻ってきたのであった。
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姉の温子が仕事で夜勤を頼まれていた日のこと……
やっぱり所用が片付きなんとか出勤できそうだからと、夜勤の代わりを頼んで
きていた同僚が病院に出勤してきた。
そのため、温子は予定より早く自宅に帰ることになる。
◇ ◇ ◇ ◇
家に入ると寝室にいるはずの夫の姿が見えず、はて? と渡り廊下に出て
どこにいるのだろうと温子は夫の哲司を探した。
敢えて1階の両親の部屋の前にも立ってみたがいるはずもなく、部屋からは
物音ひとつしなかった。
不審に思い、その他気の付く限り1階をくまなく探したが夫はどこにもいない。
あと考えられる部屋は2階しかない。
温子は2階を見上げた。
だが、2階は妹の凛子が使っている部屋があるだけだ。
もともと2階は自分たち夫婦が住んでいたのだが、妹が出戻る時にどうしても
自分が2階に住みたいと主張したため父親がそれを了承し、その代わりに
1階を増築しそこに温子たち夫婦が入る形になった。
大きな箪笥などは2階に残したままだ。
温子はおもむろに2階を見上げた後しばらく逡巡していたが、意を決して
上へと階段を上っていった。
―――――― ご挨拶 ――――――――――
・登場人物や工場の場所や女工さんの働き方、人数などはフィクションです。
当時のことを調べてそれらしく書いています。
一応、調べて書いてはいますが昔のことですし、衣類、言葉の使い方などにも
不具合があろうかとは思います。
この辺の設定は大雑把になりますがご容赦ください。
このお話も短編で進めていく予定でしたが、書いているうちに
結構長くなりました。最後まで読んでいただけるか……心配ですが
ひとまずは、連載始めてみます。宜しくお願い致します。☘
―――――― おまけ ―――――――――
【情景と温子と同僚が交わした台詞】 妄想編
夜 病院(職場) 病院看護婦詰所
温子が同僚の代わりに病院内で夜勤をしていると
同僚の白石智子が部屋に入って来る。
「温子さんごめんね、助かったわ~」
「どうしたの? お母さん倒れて大変だったんじゃないの?
ここに来て大丈夫なの?」
「最初はびっくりして慌てふためいて温子さんに夜勤を代わって
もらったんだけど……病院に着いてからすぐに意識が戻って
倒れた時の打撲したところが痛いようだけど頭とかはクリアー
で意識もはっきりしているし、病院には看護婦もいるしで
こっちに取って返して来たのよ」
「智子さん、ゆっくりお母さんの看病っていうか付き添ってて
あげればよかったのに」
「そんなぁ~、今夜は元々私の勤務ですから温子さんに申し訳なくて
……。またいつ何時お世話になるか分からないので出勤できるときは
ちゃんと出勤しておこうと思って」
「智子さんったら律儀なんだから。じゃあ折角だから私帰るわね」
「はい、お疲れ様です。いろいろとありがとうございました」
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