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1.
「ちょうど皆さんいるので渡しておきますね。今週末収録のバライティの台本です。目を通しておいてください」「はーい」
事務所の一室で久しぶりにメンバー全員集まってのYouTube撮影。
撮影の準備をしていたところでマネージャーに台本を渡され、何となく皆一旦手を止めてパラパラとページをめくる。
「…う、わ」
ある程度の流れとどんなことをするのか見ていた舜太の隣。
最初のページあたりを見てポツリと落とされた仁人の声は、きっと舜太にしか届いていないだろう。
口元に手をあてて眉間に皺を寄せた仁人の様子に、何か嫌なことでも書いてあるのかと舜太もページを戻して見てみるが、共演者たちの名前や自己紹介の流れなど書いてあるだけで、特に仁人が嫌がりそうなものが見当たらない。
「…仁ちゃん?なんかあった?」
「あ?ああ、いや。何もないよ」
そう答える仁人は先ほどの表情などなかったかのようにサラリと答える。
けれども長い付き合いだ。何もないと言われてはいそうですかと納得できるわけもない。
仁人もそんな舜太に気づいているのだろう。
まるで逃げるように立ち上がり、「ちょっと、俺トイレ行ってくるわ。準備進めといて」と言い終えるか終えないかのところで背を向けてしまった。
これ以上聞くなという無言の圧力を感じ、舜太は釈然としないままその背中を見ることしかできない。
他のメンバーは今の仁人をどう思っただろうかと周りに視線を移す。
太智と柔太朗は台本を見て「これ面白そう」と笑い合っていて、仁人の様子には気づいていないようだった。
自分だけが気づいたのかと思ったが、一言も話していない勇斗が部屋を出ていく仁人の背中をじっと見送ったかと思えば、下唇を噛んで台本に目を落としていた。
少し離れていて自信はなかったが、勇斗が見ているページはたぶん先ほど仁人が見ていたページと同じで。
彼もまた仁人の様子がおかしいことに気づいているのだとわかる。
そして、舜太が気づかなかったその理由に気づいているようだった。
「はやちゃんはやちゃん、なんか仁ちゃん、台本見て嫌そうな顔しとったんやけど、なんかわかる?」
舜太はそっと勇斗に近づいて声をかける。
台本から舜太に視線を移した勇斗の唇が軽く開いて、またすぐに閉じ、次の瞬間には綺麗な弧を描いた。
「え、そうだった?何だろ、仁人NG多いからなぁ」
いつもの明るい声色であくまでも自然に言葉を乗せていく勇斗は、何も知らずに見れば本当に何も気づいていないように見える。
「またやりたくないとか言うんちゃう?」
「まあ、何だかんだ頑張るんだけどね。よっしーは」
仁人のことを話していると気づいた太智と柔太朗も会話に入ってくる。
流石にここでこれ以上先ほどの話を深掘り出来ず、舜太も「仁ちゃん怖いもの多いけど頑張っててカッコええよな」なんて無理やり貼り付けた笑みを浮かべた。
チラリと勇斗に視線を向けると、明らかにホッとしたような表情で台本を閉じていて。
そしてすぐに立ち上がると「じゃ、そのかっこいい仁人に怒られないように準備しよ!」と手を叩く。
「はーい」と表面上は元気に返事を返しながらも、舜太の心はやはり釈然としないまま。
トイレから戻った仁人もいつも通りだった為、聞くタイミングもなく何事もなかったかのようにYouTube撮影を進めるしかなかった。
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コメント
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同じお名前に、わたし…?となりました🤣とても気になる展開にドキドキ見てます続き楽しみにしてます♥️💛