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2.
舜太が仁人のことを好きだと気がついたのは、もう何年も前のことだ。
グループに入ったばかりの時は、よく声をかけてくれて食事に誘ってくれる優しい先輩と思っていただけだったはずなのに。
焦ったら仕草が可愛くなるところや、とろけるように目を細めて笑う顔や努力家なところ。
けれど努力を努力だと思わず、当たり前のことのように頑張る姿にいつしか惹かれていった。
髪を染めて、どんどん見た目も変わっていって、カッコよかったり可愛かったり、仁人の見た目が変わるたび何度だって舜太は仁人に恋をした。
昔と比べると付き合いが悪くなり素っ気ない仁人に寂しく思うこともあるが、それでも自分のことを可愛がってくれているのはわかっているのでそれに甘えて舜太はよく仁人にちょっかいを出すのだ。
この恋が叶うことはないとわかっている。
自分は男で、仁人も男。
たぶんきっと仁人はノーマルで、舜太を弟のように思ってはいても恋愛対象にはしてくれない。
それでも近づきたくて、触れたくて、意識して欲しくて、舜太は仁人のそばによる。
それに気づいたファンからは『そのじん』なんて呼ばれて、動画投稿サイトでは切り抜き動画がたくさん出回っていた。
それを見る度に自分はこんなにあからさまに仁人に触れているのかと少し恥ずかしく思うが、その動画の中で仁人は舜太がすることを特に嫌がる様子もなくサラッと受け流していることに気づく。
それがいいことなのか悪いことなのかはわからないけれど、意識されていないことだけは確かで。
動画投稿サイトを見てはため息を吐き、嫌がられていないだけ良いかともち前のポジティブを発揮する。
そんな日々を何年も過ごしてきて、舜太の心にはいつも仁人がいた。
だから、仁人が何か困っているなら力になりたいと舜太はYouTubeの撮影が終わり、彼を食事に誘おうと考えた。
美味しいものを食べてリラックスした時ならば、何か話してくれるんじゃないかと思ったのだ。
機材を直してくると言って少し前に出て行った仁人を待つ。
他のメンバーもそれぞれ仕事や次の用事がありみんなもう帰ってしまっていた。
10分、20分。
インスタに投稿する動画を作りながら待っていたが、仁人が戻ってくる気配がない。
備品室はそう遠くないはずだし、いつもなら10分もあれば戻ってくるというのに。
もしやもう帰ったのかと慌てるが仁人のバッグはこの部屋に置かれたまま。
「…探しに行こかな」
自分と仁人のバッグを手に取り、舜太はとりあえず備品室まで行ってみようと部屋を出る。
夜遅いこともあり、誰ともすれ違わず備品室にたどり着く。
少しドアが開いていて、中から光が漏れているのが見えた。
ということは、仁人はまだ中にいるのだろう。
舜太は嬉しくなりドアノブに手をかけた。
「ーーーー、からーー、大丈夫ーーーー」
「それはーーーー、でもーーーー」
しかし中から微かに聞こえてきた声にドアを開けようとした手を止め、無意識に耳を澄ませて隙間から見える部屋の中をそっと覗いた。
そこには、もう帰ったと思っていた勇斗の後ろ姿があった。
入り口に背を向ける形で勇斗が棚に寄りかかるように立っていて、勇斗の肩の向こうに仁人の頭が少しだけ見えた。
何となく見てはいけないものを見てしまった気がして、舜太の心臓がドクドクと鼓動をはやめる。
そんな舜太に気付くことなく、二人は話を続けていく。声に意識を向けたことで、今度はしっかりと聞き取ることができた。
「もう共演決まったのはしょうがないけど、絶対一人で接触しないこと!いい?」
「…言われなくてもそのつもりだし」
「約束してよ。ちゃんと、ここで」
「なんで、お前にそこまで言われないといけないの?俺だってわかってるって。てか、俺が1番わかってるよ、あいつに会わない方がいいって」
「前科があるからでしょ」
「…はっ、前科って、言い方、」
「いいから、ちゃんと約束してって。あいつと二人で会わない、話さない。連絡きても無視する。…いい?」
「…あーはいはい。しますします」
「仁人!」
「わかってるって!俺もそこまで馬鹿じゃねぇから!」
もういいだろ!と仁人が怒鳴る。
こんなふうにメンバー相手に怒鳴る仁人は初めてで、しかし勇斗はそんな仁人に動じることなく備品室を出て行こうとするその腕を掴んで引き止める。
「うざったいって思ってるかもだけど、心配してんの!またあんな仁人見たくないからっ」
「俺だってもう二度とあんな思いごめんだわ!心配してくれてんのはわかるけど、でもそれって俺のこと信用してないってことだろ?」
「信用してないとかじゃなくて…。わかんないだろ?頭と心は違うんだから」
「だからぁ!そんなの俺が、っ、」
ヒートアップする二人の声が大きくなる。
仁人が勇斗に掴まれている手を振り解こうと勢いよく腕を振り、体が入口の方に向けられた。
そうなればおのずと仁人が視線を上げれば舜太を視界に捉えることになる。
わかりやすく動揺して目を見開いた仁人の瞳はこぼれ落ちそうなほどで。
本当は隠れることもできたが、舜太はわざとそれをしなかった。
「ちょっと、舜太、いつからいたの」
「えっ」
仁人の言葉に勇斗も驚いたように振り返り、舜太を見つける。
あからさまにやっちまった、という表情を浮かべ、勇斗の視線が仁人に向けられた。
「…あ、ごめん。仁ちゃんとご飯行けたらなって思って待ってたけど、中々戻ってこおへんから探しに来てん」
事実を告げれば、なぜ舜太が自分を誘おうと思ったか心当たりがある仁人は視線を床に落として片手で頭を支えた。
「あー…。話、どこから聞いてた?」
「え、っと…、なんかようわからんけど、俺、聞かない方が良かったってことよな」
「あー、いや、うん…」
今度は腕を組んでしばらく俯いて黙り込んでいた仁人だが、はぁ、と一つ息を落として舜太に視線を向けた。
「舜太には俺から話すから。飯、俺んちでいい?外じゃ話しづらいから俺んちでなんか食べよ」
「…俺も行こうか?」
「いやいい。俺のことだから俺が話す。勇斗は帰ってちょっとでも休めよ」
心配そうに聞く勇斗の顔の前に手をかざし、言葉でも身振りでも大丈夫だと告げる仁人の様子に勇斗はしぶしぶ頷いて返していた。
「舜太行こ」
「うん…」
何とも言えない表情をする勇斗と対照的にいつも通り振る舞う仁人の様子に、舜太はどのテンションで返せば良いのかわからなくなる。
けれどこれは自分で望んで作り出した状況なので仕方がない。
だって今ここで舜太が見つからなければこの話を聞ける機会なんて二度とないように思えた。
たとえ二人に気まづい思いをさせたとしても、舜太は聞きたかったのだ。
備品室から出てくる仁人へ荷物を渡せば、いつも通りお礼を言われる。
仁人が普通に話すので、舜太もなるべく普通を心がけた。
「あ、荷物持って来てくれたんだ?ありがと」
「タクシーで帰る?呼ぼか」
「あー、そうだな。飯はどうする?なんかデリバリーでいい?」
「うん。俺は何でもええよ」
「じゃあ、韓国料理とかでいい?」
「ええよ。任せるわ」
「おっけー」
いつもだったら絶対嬉しいはずの時間なのに、今の舜太は普通を装うだけで精一杯だった。
先程の勇斗と仁人の会話がずっと頭の中で繰り返している。
確信的な言葉こそなかったが、今度のバライティの共演者の中に仁人と過去何かあった人がいるのだろうことは何となくわかった。
共演者を思い返してみるが、若手俳優が二人と、女性芸人が三人、男性YouTuberが一人とM!LKの五人だったはずで。
その中で仁人と関わりのあったであろう人物が全く予想がつかないのだ。
同じ事務所ならまだわかるが、全員別の事務所に所属していて、女性芸人に至っては年齢だって二十歳はゆうに離れている。
今すぐにでも答えを聞きたいが、仁人は外でする話ではないと言っていた。
なので舜太ははやる気持ちを何とか抑えて、やって来たタクシーに大人しく仁人と乗り込む。
窓の外を眺める仁人の後頭部をバレないように見つめ、こぼれ落ちそうなため息を飲み込んだ。
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