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部屋は静かだった。
蝋燭の火がゆらゆら揺れている。
ノスフェラトゥは壁際へ追い詰められたまま、浅い呼吸を繰り返していた。
喉には首輪。
冷たい革が肌へ馴染んでいる感覚が、消えない。
それが悔しかった。
スペクターはそんな彼を見下ろしている。
赤い瞳。
愉快そうな笑み。
「そんな顔しないで」
指先が、首輪の金具を軽く鳴らした。
カチ、と小さな音。
その瞬間、ノスフェラトゥの肩がびくりと震える。
「……っ」
「敏感だね」
「うるさい……」
ノスフェラトゥは睨む。
だが、迫力が足りない。
耳は伏せ、
呼吸も乱れている。
完全に見透かされていた。
スペクターはくすりと笑った。
「でも、ちゃんと我慢できた」
「噛まずに耐えたね」
その声音は妙に優しかった。
ノスフェラトゥが一瞬黙る。
褒められるなんて思わなかった。
古代吸血鬼の世界で与えられるのは、
命令か、
恐怖か、
暴力だけだった。
だから。
こんな風に甘やかされると調子が狂う。
スペクターはその反応を見ながら、ゆっくり顔を近づけた。
「約束しただろ」
「いい子にはご褒美をあげるって」
ぞく、と背筋が粟立つ。
ノスフェラトゥが逃げようとした瞬間。
スペクターの指が顎を支えた。
「動かない」
低い命令。
それだけで、身体が止まる。
悔しい。
本当に。
なのに逆らえない。
スペクターは満足そうに目を細めると、そっと自分の首元を開いた。
普段は隠されている、
脈打つ場所。
「……!」
ノスフェラトゥの瞳が揺れる。
血の匂いはしない。
なのに。
そこには、異様な“生命”の気配があった。
濃密で、
甘くて、
頭が痺れるような感覚。
スペクターは喉元へ指を添えたまま囁く。
「許可する」
「噛んでいいよ」
その瞬間。
首輪が甘く熱を持った気がした。
ノスフェラトゥの呼吸が乱れる。
だが、乱暴にはできない。
まるで許しを乞うみたいに、
恐る恐る顔を寄せる。
スペクターは逃げなかった。
むしろ、髪を優しく撫でる。
「そう」
「いい子」
その言葉だけで、ノスフェラトゥの背筋がまた震えた。
牙が肌へ触れる。
そして――。
ちくり、と浅く沈む。
瞬間。
ノスフェラトゥの目が見開かれた。
「……ッ!?」
熱い。
血ではない。
もっと濃い何か。
生命そのものを流し込まれるみたいな感覚。
頭の奥が白く痺れる。
心臓が暴れる。
指先が震える。
スペクターはそんなノスフェラトゥを抱き寄せながら、耳元で低く笑った。
「どう?」
「美味しい?」
ノスフェラトゥは答えられない。
吸うたび、
身体が蕩ける。
飢えが満たされる快感と、
支配される安心感が混ざってしまう。
最悪だった。
こんなの、
依存そのものだ。
なのに止められない。
スペクターは首輪へ指を引っ掛け、軽く引いた。
「ほら」
「もっと欲しいなら、ちゃんとおねだりして」
「……っ、ぁ……」
ノスフェラトゥの耳は完全に伏せ切っていた。
牙を立てたまま、
苦しそうに呼吸しながら。
まるで、
“ご主人に褒められたい獣”みたいに。