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結婚相手を間違えました

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結婚相手を間違えました

32 - 第32話 気付いてくれたのは貴方だけ②

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2025年02月28日

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「――っ!!」


久々。すぐそばに感じたそうの存在感にドキッと心臓が跳ねて、思わず反応が遅れた結葉ゆいはに、

「クッキー。上にあんだろ? 取ってやるから指示出せよ」

とぶっきらぼうにそうが言い募った。



そうくーん、お客さんなのに手伝わせちゃってごめんなさいね〜」


そこで、向こうから美鳥みどりとした声がして、「いや、俺も食いたいんで問題ないっす」とそうが返す。



「――で?」


再度結葉ゆいはに視線を落として問い掛けてきたそうに、

「あ、あの、そっち。左側の扉のところ。開けたら金色の丸い缶が入ってると思うから……」


偉央いおに対する罪悪感と恐怖心。そうに対する後ろめたさと安心感。

相反するふたつの気持ちを悟られたくなくて、瞳をそらしがちにそう言ったら、難なく目的の缶を手にしたそうに、それを手渡される。


「有難う」と受け取ったと同時、一瞬だけ結葉ゆいはの方へ顔を寄せたそうに、小声で耳打ちされた。


結葉ゆいは。お前、何か変に空元気からげんき出してるよーに見えるし、すげぇオドオドしてっけど……。もしかして心配事とかあるんじゃねぇのか?」


その言葉に瞳を見開いて……「な、んでそんなこと……」ってつぶやいたら、声が情けなく震えて、鼻の奥がツンとした。


両親にだって気付かれなかったのに。

さっき久しぶりに再会したばかりのそうが、自分の心の叫びに気付いてくれたことが結葉ゆいはは堪らなく嬉しくて。


涙が盛り上がってきそうになったのを誤魔化すように、慌てて美鳥みどりたちのいるリビングや、そうに背を向けて食器棚に駆け寄った。


そうはそんな結葉ゆいはの小さな背中に向かって

「俺の携帯。番号変わってねぇから遠慮なく電話してこい」

言って、名刺を結葉ゆいはの手に握らせると、何事もなかったかのようにリビングへ戻って行った。


そうちゃん……番号、わざわざ渡してくれなくても私、覚えてるよ……)


誰もいなくなったキッチンの片隅。

結葉ゆいはそうに手渡された名刺をギュッと握りしめて、心の中でひとりつぶやいた。



***



結葉ゆいは、遅くなってごめんね」


美鳥みどり茂雄しげおと親子水入らずの夕飯を終えた頃、偉央いおが迎えにやって来た。


時刻は二十時はちじになろうかというところで。


偉央いおくん、遅くまでお疲れ様」


茂雄しげお偉央いおねぎらって、美鳥みどりが「少ないけど」と今日の夕飯に出された豆腐入りのハンバーグをお裾分けに持たせてくれる。


「有難うございます」


玄関先、そんな二人に偉央いおがニコッと微笑むと、両親が息を呑んだのが分かった。


偉央いおほどの美貌になると、老若男女問わず、ただ笑いかけられるだけで皆一応にフリーズしてしまうらしい。


そうしてみると自分は偉央いおと過ごした数年間で彼の顔に対する耐性が出来たのかな?とふと考えてしまった結葉ゆいはだ。


(ううん、違う。多分……それよりむしろ――)


きっと結葉ゆいは偉央いおの笑顔の下に隠された〝裏のほんとうの顔〟を知ってしまっているから。

だから偉央いおに微笑みかけられても、見惚れるよりも先に〝怖い〟と感じてしまうのだ。

それが、手放しに偉央いおのキラースマイルに魅了されない原因なんだろう。


偉央いおさんも、そうちゃんみたいに心からの笑顔を向けてくれたらいいのにな。きっとそうしてもらえたなら私、何も知らなかった頃のように偉央いおさんのお顔にときめくことが出来るのに)


そこまで考えて、知らず知らず偉央いおそうを比べてしまっている自分にハッとして。


次いで、そんな結葉ゆいはの顔をうかがうように、偉央いおがじっと見つめていることに気が付いてゾクッとした。



結葉ゆいは、どうしたの? さっきから僕の顔をじっと見つめて」


どうやら結葉ゆいは、無意識に偉央いおの顔を見つめてしまっていたらしい。


「ごめ、なさっ。何でも……ないですっ」


結葉ゆいはがそう言うと同時、まるで「逃がさないよ?」と宣言するみたいに偉央いおに手を握られて。

ひんやりした偉央いおの手から逃れたくてソワソワしてしまった結葉ゆいはに、美鳥みどりが「旦那様のお顔に見惚れるなんて、ゆいちゃんってば♥」と揶揄からかってくる。


(お母さん、違う。そんなんじゃないの……。お願い、気付いて……!)


咄嗟、そう思った結葉ゆいはだったけれど、実際にそんなこと、美鳥みどりに気付かれてしまったら悲しませてしまう!と思い直して。


次いで、偉央いおの方も、美鳥みどりみたいにしてくれたなら、二人きりになったとき、いいな……と思ってしまった。

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