テラーノベル
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第七十九話 三人目
「三人目を探して」
その一文だけが、いつまでも画面に残っていた。
彼女は何度も写真を見返している。
「……三人目って、この写真を撮った人だよね」
「たぶん」
彼は写真を拡大した。
写っているのは、雨の中に立つ自分。
少し離れた場所にいる、もう一人。
そして、その二人を正面から撮った写真。
「これ、撮った場所……」
彼が写真の端を指差した。
「この建物の裏じゃない」
「じゃあ、向かい側?」
「うん。でも……」
彼は画面をじっと見つめる。
「写真を撮るなら、もっと近くから撮れるはずなんだよ」
「わざわざ離れて撮ってる?」
「そう」
それが妙に引っかかった。
まるで、二人に気づかれないように
撮ったように見える。
彼女が写真を指でなぞる。
「この人……私たちを見てる」
「え?」
「ほら」
写真の中の「もう一人」の顔は、
こちらを向いていない。
その視線は、写真を撮った方向へ向いている。
つまり――
撮影者の存在に気づいていた。
「……知ってたんだ」
彼が呟いた。
「撮られてることを?」
「うん」
それなら、なぜ写真を撮らせたのか。
なぜ、この一枚だけが残っているのか。
二人は建物の裏から出て、
写真に写っている場所を探した。
道路を挟んだ向こう側。
古い建物が一軒ある。
けれど、そこは今では使われていないようだった。
「ここかな」
彼女が入口を見る。
彼は写真と見比べた。
「……たぶん」
中には入らず、周囲を歩く。
すると、建物の横に小さな掲示板があった。
古い紙が何枚も重なっている。
その中に、一枚だけ妙に新しい紙が挟まっていた。
彼女が取り出す。
そこには、あの印。
丸に一本線。
「またこれ……」
紙を開く。
書かれていたのは、たった一行だった。
『写真を撮った人は、ここにいた』
彼は周囲を見回した。
「でも、誰もいない」
「昔のことだからね」
「……そうだよな」
そう言いながら、彼は掲示板の裏側を確認した。
すると、裏に小さな封筒が貼り付けられていた。
表には何も書かれていない。
「これ……」
彼女が封筒を剥がす。
中には、一枚の写真が入っていた。
今度は、雨の日ではない。
晴れた日の写真。
駅の近く。
写真の中央には、二人が並んで歩いている。
顔ははっきり写っていない。
けれど――
二人の後ろに、少し離れて歩いている人がいた。
「……また」
彼が息を呑む。
「この人……」
服装は分からない。
顔も見えない。
ただ、二人と同じ方向へ歩いている。
彼女が写真の裏を見る。
そこには日付があった。
事故の前日。
「事故の前日から……ついてきてた?」
「そうかもしれない」
「じゃあ、この人はずっと私たちを見てたってこと?」
彼は答えなかった。
写真の中の自分は、何も知らないように歩いている。
隣にはもう一人。
その少し後ろに、三人目。
まるで何かを確かめるように。
彼は写真を裏返した。
日付の下に、薄い文字がある。
『二人が忘れる前に』
「……忘れる前に?」
彼女が呟く。
その瞬間、彼の中で何かが引っかかった。
忘れる前。
つまり――
この写真は、事故が起きることを
知っていた誰かが残したものなのか。
「待って」
彼はもう一度、写真を見た。
「この写真、事故の前日に撮られてる」
「うん」
「だったら、この人は……」
言葉が止まる。
事故が起きることを知っていた。
そう考えるには、まだ証拠が足りない。
けれど、写真の裏の言葉はあまりにも意味深だった。
そのとき。
スマホが震えた。
知らない番号。
『その人は、事故を起こした人ではない』
彼女が画面を見る。
「……事故を起こした人じゃない?」
続けて、もう一通。
『でも、事故が起きることを知っていた』
彼の表情が固まる。
「知ってた……?」
さらにメッセージが届く。
『だから、写真を残した』
彼はしばらく何も言えなかった。
やがて、ゆっくりスマホを握り直す。
「じゃあ、この人は……」
彼女が続ける。
「事故を防ごうとしてたの?」
「……分からない」
最後のメッセージが届く。
『違う』
二人とも画面を見つめた。
『その人が残したのは、事故を防ぐための写真じゃない』
少し間を置いて、もう一文。
『事故のあと、君が真実を見つけるための写真だ』
彼は写真を握りしめた。
事故の前から、自分たちを見ていた誰か。
事故が起きることを知っていた誰か。
そして、事故のあとに自分たちが
真実を探すことまで想定していた誰か。
「……この人は、最初から全部知ってたのかな」
彼女の声が小さく響く。
彼は写真の中の三人を見つめた。
「もしそうなら……」
事故の日、自分が忘れたものは。
箱だけじゃない。
名前だけでもない。
――誰かが、自分たちの記憶を残そうとしていた。
コメント
1件
「三人目」の存在、怖いのに引き込まれちゃった……。「二人が忘れる前に」って言葉がすごく刺さって、誰かがずっと見てたって感じがゾッとするのに、写真はちゃんと残されてたんだね。事故を知ってて、「真実を見つけるため」に残すって、すごく重い選択だと思う。クラリスさんの世界観、じわじわ染みてくるよ🖤
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