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2 - 第2話 理性

2025年03月11日

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その夜、月は姿を隠していた。飲み終えた赤葡萄酒の瓶を棚に置くと、一段落ついたように部屋の灯りを消した。途端に、周囲は暗闇に包まれる。そして酔いが醒めていないらしく、フラリと蹌踉めいた。酔うことが滅多にないエヴァンは酒を飲んだことに後悔した。怠さで動く気力も無かったが、鉛のような身体を動かして寝室へと階段を上る。軈て、倒れ込むようにベッドへ横になった。すると太陽の光に似た温かさを感じて手で探る。ふわりとした毛に、粘り気のない髪……。クルルだと気づく前に、片手に抱き着かれた。そしてハッと息を呑む。  ──服を着ていない。

柔らかいとは言えない硬い身体。お互いが黙り込んでいるうちに布団の中は湯気が出る程に熱くなった。クルルの火照った顔が視界に入り、思わず身を引く。自然と身体が求めていることに苛立ちを覚えた。

「急に欲情してどうした?」

口調は相変わらず淡々としている。だが、呼吸は荒く理性を抑えることに必死だ。クルルは恥ずかしげに瞳を濡らして布団に身を隠した。見てみれば、体を消えてしまいそうなほどまでに萎縮させている。エヴァンが声を掛けようとしたと同時に、忽ち鼻をすする音が聞こえてきた。

「ずっと耐えてきたんですよ。隣に居ても、心が離れているようで悲しかったから重なりたかった。でも、貴方がそれを望んでいないかもしれないから……誘った。でも貴方、一切気付かずに見知らぬ輩と話していましたよね?」

「そのような仲ではない。大学の同級生だ」

不死鳥の男で、昼間に病院ですれ違ったのだ。まさか見られていたとは……。

「でも接吻していましたよね」

「あれは恋人同士の接吻ではない。西側の挨拶だ」

「そうすると……先生は私に挨拶してないことになりますよ」

「前に言っただろう。俺は北側で生まれ育った。故に挨拶の方法が異なる。いつも握手で挨拶をしているじゃないか」

「……接吻くらいさせて下さいよ」

痺れを切らして布団から頭だけ出す。耳を後ろにペタンと倒して尻尾を揺らした。普通なら理性が限界まで達している筈が、エヴァンは冷静だった。布団から外は極寒である。狂いそうな程に火照っていた体も、すぐに熱が奪われた。

「獣は欲情すれば、理性も消え失せる。本能で孕ませようとする。それを分かって発言しているのか」

「ええ、そうですとも。私がしっかりと三千年考えた結果ですよ。どれだけ乱暴にされようが、利口にして暴れません」

三千年という年数に愕然とする。ただ、その三千年間という長い時間の中、一度も相談されていない。褒めるべきなのだろうかと考えを巡らせた。眼の前の麒麟は布団を剥いでグッと身を乗り出す。

「さっき青い豹紋が薄っすらと出ていましたね。発情したという証拠です。竜は発情期でも全員に興奮するわけじゃない……。でも私を眼の前に興奮したでしょ?」

シューッと火のような息が吹きかかる。エヴァンは脚や腕をチラリと見て、軽く頷いた。クルルは狂喜の声を上げそうになったが、寸前で口を押さえる。頬を染めて、一人で盛り上がっているクルルを見つめながら、エヴァンは寂しそうな眼をした。

「明日は予定が無かったな。病院は祝日で休みだ」

「!」

「夜更かしするには絶好の機会だろう」

そうとだけ言うと、酔ったように唇を重ねてベッドを軋ませた。

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