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僕らは永遠にずうっと一緒。
怯える日々も、落ち着かない夜も。
君を傷つけるためのものは全部、僕を傷つけるためのものでもある。
君を怯えさせるものたちは、僕ができる限り全部、君から遠ざけてあげる。
僕がいるから、僕だけはちゃんといるから。
大丈夫、僕のところには逃げていいんだよ。
全部忘れていいよ。
君の背負ってる重たいものも、見えないようにしようね?感じないようにしようね?
僕と、二人っきりでいる安心感に浸ってればいいんだよ。
この僕らだけの時間、無という色が光って見えそうな時間。
君は君でいい。
君は君であることを、僕が証明するから。
ここでは、晒していいんだよ。
誰も否定しないから。
ここは君の居場所だから。
怖いよね、苦しいよね、辛いよね、しんどいよね、悲しいよね、何も感じたくないよね…でももう大丈夫だよ、ほんの少し、休んじゃおう。
一人で休まなくていいんだよ、僕も一緒にいる。
一人で泣かなくていいんだよ、僕も泣く。
君が泣けない分だけ代わりに泣くし、君が怒れなかった分だけ僕が怒る。
もうどんな感情も否定しなくていいよ。
たくさんたくさん、君を抱きしめてあげる。
大事に大事に、匿ってあげる。
もういいんだよ、もう大丈夫なんだよ。
ほら、こっちにおいで。
………よくできました。
垂れ流されたテレビをぼーっと見ていた。
小学生の男女が、物陰に隠れて指切りをしていた。
一度見たことのあるものだったのか、見覚えのあるシーンだった。
途中で興味が失せて、ソファーのクッションに顔を埋めた。
ストンと肩が重くなって、ぬくもりに包まれる。
「どうしたのー?」
聞き慣れた優しい声。
ずっと声を出していなかったのか、少しかすれていた。
その問いに首を横に振って答える。
胸の奥がなんだか落ち着かない気がしたけれど、分からなかった。
「僕お仕事終わったから、一緒にお風呂入りに行こう?」
今度は縦に首を振った。
いつものようにお風呂を終わらせると、スキンケアされて、流れるように髪も乾かされる。
終わると同時に抱きしめられる。
「あつい…。」
一言ポツリと呟くと、左耳に息が吹きかかった。
反射的に体をのけぞった。
「ごめん、笑い我慢できなかった…。」
今も笑いをこらえているようだった。
「お風呂上がりにハグは、流石に暑かった?」
顔を見なくても、微笑んでいるのがわかる声だった。
「うん。」
そう私が小さく返事をすると、頭を私の肩に押し付けて、また笑いを堪えるのに必死になっていた。
その間もずっと、背中の方から回された腕は取れない。
密着した体は離れない。
暑かった。
二人で冷凍庫を開けた。
バニラとオレンジとチョコミントの棒アイスが何本ずつかある。
「今日はどれがいい?」
「…。」
何を食べたいとかは無かった。
少し悩んで、一番手前にあったチョコミントを選んだ。
「じゃあ僕も同じやつにしようっと…。」
透明の袋からアイスが取り出され、顔に近づけられる。
一口かじる。
「おいしい?」
少し頷いて答えた。
それから自分でアイスを持って、ソファーへ移動した。
二人並んで座った。
アイスは甘かった。
ふかふかの少し大きなベッド。
保温性もそこそこ高いはずなのに、寒い気がした。
枕を抱いて、部屋を移動する。
どこの部屋も暗くて、たまに壁に足をぶつけた。
じんと痛かったけれど、止まることはなかった。
静かにそっとドアを開ける。
掛け布団に潜り込んで、そのまま腕の中に入る。
途中で持っている枕が邪魔だと気がついて、そこら辺に置いておく。
添い寝は成功した。
このベッドは暖かかった。
すぐに瞼が重たくなって、気づけば夜は通り過ぎていった。
あの日以降、ずっと僕らは一緒にいる。
そのためにたくさんの準備も進めてきたし、仕事だって変えた。
すべては君を救うため。
君が救われれば、僕も救われる気がした。
あまりにも重たい日々だった。
重たいものからできる限り遮断させた。
けれど、数カ月の間、君は苦しみ続けた。
病気はそんな簡単に良くはならなかった。
長い間悪化させ続けたものだったから、時間がかかることは覚悟していた。
でも状態は、僕が思っている以上にひどいものだった。
こんなにまでなっていたのに…そう色んなものを恨んだ。
数年して、体調不良の傾向は減少してきた。
今でもたまに具合が悪くなる日はあるが、それでも以前に比べたらよっぽどマシだった。
それは頻度だけでなく、症状の重さにも言えることだった。
ただ、どれほど時が経っても変わらないものもあった。
それは、記憶の曖昧さだった。
脳の働きはまだ復旧しきっていないようだった。
少しずつ、感情の制御も落ち着いてきているし、自発的な行動も増えてきている。
ただ、何をどこまで理解しているのかは、曖昧だった。
過去の壮絶な話は体が拒絶するようだけれど、よくわかってもいなさそうだった。
小学生の頃、二人で写っている動画を見せてみても、自分たちだと認識している気配は無かった。
僕と自分が恋人であること、そして僕を好いていることは理解しているみたいだから、愛情に触れてもらうためにも、スキンシップも愛情表現もやめていないが、寝室は分けるようにしていた。
いつでも入れるように鍵は開けておいている。
過去をちゃんと認識すること、自分をちゃんと認識することは、本人には余りにも苦しいことなのかもしれないけれど、生きていくうえで必要なことだから、ゆっくりでいいから、やめさせないようにしないと。
もう一緒に暮らして5年も経つ。
僕らに流れる時間は、もっともっとゆっくりに感じる。
彼女が彼女であれる日を今日も願って、僕は彼女を抱きしめた。