テラーノベル
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若井滉斗(攻め)
大森元貴(受け)
※付き合って無い
スタジオの空気は、いつもと同じだった。
アンプの低い振動、チューニングの微かなズレ、機材のランプの光。
その中で、大森元貴は床に座り込んで、ノートにペンを走らせていた。
若井「なあ元貴」
ふいに呼ばれて顔を上げる。
視線の先には、ギターを抱えた若井滉斗。
若井「このコード進行さ、サビ前で変えた方が いいと思う?」
軽く弦を弾く音が、空気を震わせる。
元貴「んー……」
大森は少しだけ目を細めて、耳を澄ませた。
一度、二度、同じフレーズが繰り返される。
元貴「……いや、そのままの方がいい」
若井「ほんと?」
元貴「うん。」
言葉は短い。
でも若井は、少しだけ安心したみたいに息を抜いた。
若井「そっか」
そのまま、またギターに視線を落とす。
――こういうやり取りは、もう何年も続いてい る。
幼なじみで、バンドメンバーで、 隣にいるのが当たり前の存在。
それ以上でも、それ以下でもない。
……はずなのに。
元貴(……近くない?)
ふと、元貴は感じる。
若井が座る位置が、ほんの少しだけ近い。
肩が触れるか触れないか、くらいの距離。
前からこんなだったっけ、なんて考えても、答えは出ない。
若井「元貴?」
元貴「……あ、ごめん。もう一回弾いて」
若井「了解」
何も気にしていないみたいに、若井は弾き直す。
その横顔を、つい見てしまう。
指の動き、真剣な表情、少しだけ寄った眉。
元貴(……ほんと、変わんないなぁ)
中学の頃から、何も変わらない。
――そう思っているのに。
胸の奥が、少しだけ落ち着かない。
元貴「……いいじゃん」
ぽつりと呟くと、若井は少しだけ笑った。
若井「お前が言うなら間違いないな」
その言葉に、なぜか一瞬だけ息が詰まる。
軽い冗談のはずなのに。
妙に、響いた。
若井「涼ちゃん〜、これ聴いて」
奥に声をかけると、ソファでごろついていた藤澤涼架が顔を出した。
藤澤「はーい、今行く〜」
いつもの、ゆるい空気。
でも。
その中にいる若井のことを、
ほんの少しだけ意識してしまっている自分に気づく。
元貴(……なんだこれ)
理由は分からない。
ただ、なんとなく。
視線が合うと、少しだけ逸らしたくなる。
距離が近いと、妙に気になる。
それだけ。
それだけのはずなのに。
「元貴、ちょっといい?」
帰り道。
スタジオを出てすぐ、知らない声に呼び止められた。
振り返ると、同じ業界の知り合いだった。
元貴「あ、どうした?」
少し緊張した顔。
言いづらそうに、でも覚悟を決めたみたいに口を開く。
「あのさ……前から思ってたんだけど」
その空気で、察する。
「あの、よかったら……付き合ってほしい」
一瞬、思考が止まる。
風の音だけがやけに大きく聞こえる。
元貴「……え」
予想してなかったわけじゃない。
でも、こんなタイミングで来るとは思ってなかった。
「急なのは分かってる。でも、ちゃんと考えてく れたら嬉しい」
真っ直ぐな目。
逃げ場なんてない。
元貴「……少し、時間もらっていい?」
「うん、もちろん」
相手はほっとしたように笑った。
それを見て、大森も曖昧に笑い返す。
頭の中が、うまく回らない。
元貴(……どうすればいい)
嫌じゃない。
むしろ、いい人だと思う。
付き合う理由としては、十分すぎる。
なのに。
元貴「……はあ」
小さく息を吐く。
なぜか、すぐに答えが出ない。
若井「で、どうすんの?」
スタジオに戻ると、若井が何気なく聞いてきた。
どこから聞いてたのか分からない。
でも、全部分かってる顔だった。
元貴「……見てた?」
若井「まあな」
悪びれもなく笑う。
その態度に、少しだけムッとする。
元貴「普通に告白されたんだけど」
若井「へえ」
興味なさそうな声。
でも、指先だけがほんの少し止まった。
元貴「いい人だし、正直迷ってる」
そう言った瞬間。
ほんの一瞬だけ、空気が止まる。
気のせいかもしれないくらい、一瞬。
若井「……そっか」
若井はそれだけ言って、またギターを触り始めた。
何も変わらない顔。
何も感じていないみたいな声。
でも。
元貴(……なんで)
少しだけ、引っかかる。
元貴「どう思う?」
なんとなく、聞いてしまう。
答えなんて、分かってる気がするのに。
若井は少しだけ考える素振りをしてから、
若井「……いいんじゃね?」
あっさりと、そう言った。
若井「ちゃんとしてるやつっぽいし」
軽い調子。
いつも通りの距離。
若井「そいつにしとけよ」
その一言。
――胸の奥が、ぎゅっと締まる。
元貴「……そっか」
自分でも驚くくらい、声が少しだけ低くなった。
でも若井は気づかないふりをして、ただギターを弾いている。
音だけが、やけに響く。
元貴(……なんで)
納得したはずなのに。
背中を押してもらったはずなのに。
どうしてこんなに、
苦しいんだろう。
スタジオの空気は、いつもと同じまま。
でも。
……もう戻れない気がした 。
ええ、投稿遅くなってすみません。完全に病気になりました。
投稿頻度が遅くなります
なんの病気かは、言えないのですが病院に通いながら薬飲んでる状況ですとしか言えませんが、ご心配なさらず。
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